国際演劇交流セミナー2021 香港特集報告
香港 ⇔ 日本を繋ぐ
オンラインワークショップ
アンドリュー・チャンのディバイジングシアター
~ 地図のない冒険~
2021年12月14日~19日、昨年と同じくアリス劇場実験室の芸術総監督アンドリュー・チャン氏を迎え、国際演劇交流セミナー香港特集「ディバイジングシアター ~地図のない冒険~」を行いました。残念ながら、2年連続のオンライン事業となり、東京、京都、香港の3会場を繋ぎ、最終日に東京と京都の参加者パフォーマンスを相互関連させて発表をするという新たな挑戦でした。題材は、東京組は三島由紀夫の『仮面の告白』と『女神』、京都組は「三島の生涯に関する資料や本」をベースに、参加者が討論や個人のパフォーマンスを行い、最終日には講師がまとめた創作を試みる全6日間のオンラインワークショップとなりました。
初日は「ポストドラマ演劇とディバイジングの紹介」、2日目以降は「個人パフォーマンスの発表」、「三島のイメージの彫像化」、「各チームの研究成果のプレゼン」、「15分間のパフォーマンス」、「シンボル化」、「シンボル化から詩を作る」、「詩のパフォーマンス化」、「パフォーマンスの融合」、「ブレヒト演習~この犬、キッチンに入ってきた~」など、バラエティに富んだものでした。(トピックを読まれて興味を持った方は是非、国際演劇交流セミナー年鑑2021をご参照ください)
今回の香港特集は「香港人が三島を題材にする」、「東京・京都・香港の3か所をオンラインで繋ぐ」、「講師はオンライン、日本は対面参加で、6日間で創作発表を目指す」、「ディバイジングという集団創作手法のシェア」など、かなり実験的な要素の多い企画でした。特に「演劇はオンラインでも作れるのか」という命題に向け、なるべく対面実施に近くなるように、複数台のカメラや投影スクリーン、特別な音響設備などを準備しましたが、正直言って、担当者としては、技術的にはまだまだ不足な部分があったという反省があります。
しかし、発見もかなり多かったのも事実です。やはりオンラインとはいえ、過ごす時間が長くなるほど、各自の素養や、個性は見えてくるし、ある程度の密な交流ができたのは一つの収穫でした。特に、ディバイジングの「テキストに頼らない創作プロセス」のおかげで、個人プレゼンをする時間も多く、参加者の個性を表面化し良い交流ができ、更に講師の豊富な知識が加わり「三島」という強烈な題材を、各自が多面的な視点でとらえることができました。
もう一つは「ポストドラマ演劇の可能性」です。通常の会話劇と違い、ポストドラマ演劇では、俳優のやり取りはあくまで劇の一構成要素です。よりビジュアルやセリフの音楽性が高いうえ、マルチフォーカス、多声的という手法は、オンライン創作との相性は決して悪くはなかったと思います。最終日の東京と京都のコラボ発表は会場に投影された映像上では、「京都と東京が隣り合った画面で共演」し、京都会場にいる私の目前では、「京都組による生のパフォーマンス」が行われている。「目前の生」を見ながら、「遠方の生」を感じると同時に、画面上では一つの完成されたパフォーマンスを見るという特殊なライブ体験であり、技術革新が進めば、新しい可能性になるかもしれないと発見しました。
非常に不安定な香港で活動するアンドリューさんと、今回の参加者は、セミナー終了後にSNSで繋がりました。「東アジアの国々との交流は強めるべき」という国際部方針もありますが、香港に特別な友人ができた私達は、今後もかの地を注視していきたいと思います。
報告者:佐川大輔
(国際演劇交流セミナー2021香港特集 実行委員)