日本の戯曲研修セミナーin 東京2020《オンライン版》 井上ひさしを読む! 『日本人のへそ』 報告
【報告✎】
井上ひさしを読む!『日本人のへそ』を終えて
若き日の井上ひさしの音楽劇をZoomを利用して、全国と海外2カ国を含め様々な国と地域から集まった演出家が声を出して読み、様々な角度で議論を戦わせる4日間が始まった。まずは戯曲を実際に声に出して読んでみる。今回の戯曲は和製ミュージカルと言われるだけあって歌唱パートが沢山ある。黙読では分からない歌詞の持つリズム( メロディは付けていないので、あくまでも歌詞の持つリズム) や、掛け合いから起こるテンポなどを体験していく。初日の後半は中野正昭先生による講義「戦後の浅草文化と『日本人のへそ』」を聴講。演出家の視点からではなく浅草文化からの戯曲へのアプローチを聞けるのは、この研修セミナーの醍醐味の一つと言えるだろう。井上ひさしの浅草フランス座への眼差しや、そこに現れる井上戯曲の原点にも触れられた気がした。
2日目は前日同様、戯曲の後半を声に出して読んでみる。『日本人のへそ』は1幕と2幕で様相がガラリと変わる戯曲なので、その変化も参加者で共有していく。本日の講義は橋本陽介先生の講義「『文法』からみる井上ひさしの台詞」であった。文法のスペシャリストによる、井上ひさしの言葉の解体である。井上ひさしの韻の踏み方、役割語(レッテルを貼る)など、様々な話の中に、【空洞化】というワードがでてきた。言葉を意味的に使うのではなく、音的に使うことで意図的に【空洞化】しているというのである。この【空洞化】は、奇しくも前日の中野先生からも出てきたワードであった。意味のあるものにこだわるのではなく、敢えて無意味な言動を繰り返すことにより物語を【空洞化】していくというのである。これには驚きとともに、戯曲の書かれた当時の日本の空気感や井上ひさし本人の感覚を感じられた気がした。
2日間の声を出しての読み合わせと講義を経て、残りの2日間は様々なテーマでのディスカッションが繰り返された。音へのこだわり、言葉の使い方、1幕と2幕の違い、性別の捉え方、現代の視点、当時の感覚、演出家としてこの作品を立ち上げるとしたら等々。時間が尽きるまで結論を求めるのではなく意見を戦わせることが出来たことは、演劇の製作現場と似ていて、悩ましくも楽しい時間となった。
コロナという状況が無ければ有り得なかったオンラインでの戯曲セミナー。様々な国や地域の方々との意見交換は、今後の新しい展開を期待させてくれるものでした。
日澤雄介
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