ミュージカルをやってみよう
~実用編~
演劇入門
歌を最初に稽古するのがコツ
ミュージカルは観ても演っても楽しいものです。歌って踊ってお芝居して、楽しい!
これこそがミュージカルの魅力です。世界100か国以上で毎日上演されています。
未経験だと不安でしょうが、稽古のやり方からお教えします。それでは、歌稽古からはじめましょう。歌が仕上がらないと、歌いながらのダンスも、歌に入る前の芝居とその後に続く歌の心情表現も稽古できません。まず歌うための発声練習から取り掛かってください。いろんな方法がありますから、ぜひネットで「ボイストレーニング」を検索しましょう。多くのサイトから自分に合いそうなものを選んで実際に歌ってみてください。動画がついているので簡単に理解できます。歌を仕上げればダンスも芝居も練習できます。ただし、歌の発声ですが、気を付けて欲しいことがひとつあります。それは「ミュージカルの歌は地声で歌う」ということをよく耳にします。ところが地声を張り上げて稽古をして、声帯をこわす人が続出しています。小中高生ではもっとひどい状況です。声帯はわずか1センチほどの繊細な器官で、ひとつしかありません。オペラのようなクラシックの声楽のファルセットと比較して、ジャズ音楽が主流のミュージカルでは、地声からファルセットへの目立たないチェンジボイスが特徴でそれを地声と称していますので誤解のないように練習してください。
音を正確におぼえるコツ
好きな歌を流しながら真似て歌うこと。正しい音程を聞いて耳をきたえて、それから同じ音程で声に出すことです。歌は呼吸法も重要なので、呼吸法も真似をしてください。音程がずれることを、俗に「音痴」といいますが、ミュージカルではこれはご法度です。絶対に音をはずさないという精神を養います。音程を外すと伴奏や、他の俳優とのハモリなどすべて壊してしまいますので、微妙に音がとれない人は、和音の中のひとつの音を声に出して練習すると改善します。
音をフラットさせないコツ
ロングトーンといって、長く同じ音を出す練習です。動きも加えて、例えば椅子に座ったり、立ったりしながら長く同じ音を出す練習と床に寝て脱力しながら横隔膜を使って声を出します。
歌稽古で大切な目標
1. 綺麗な魅力的な声にする
2. 音痴にならないようにする
3. 感情を表現する
ミュージカルの稽古方法
ミュージカルは、一般の演劇の稽古に比べて、歌、ダンス、芝居の三つを稽古する為、3倍の期間と労力が必要です。仮に演劇では2カ月稽古をするとすれば、ミュージカルでは3倍の6カ月稽古することになります。もちろん作品や演出によって稽古方法と期間は変わりますが、歌稽古で音どりとリズムを稽古します。リズム感は重要で、ニューヨークのブロードウェイでは、このピアノとドラム参加の稽古が基本になっています。
カラオケの音源を使う
有名ミュージカルの音源を市販のカラオケCDにすることもできます。ネットで検索すれば通販で購入可能ですから探してください。この場合は歌稽古からこの音源で稽古を行います。もしピアノ演奏ができる人がいればもちろん生演奏がミュージカルには最適です。楽器演奏者と俳優の呼吸がひとつになる状況はそれだけで観客の感動を生みます。歌稽古で、楽譜のこの音は9拍伸ばすとか、この箇所は誰と誰が二人で歌い、ここは全員で歌うとかのパートを細かく決めていきます。また、この歌稽古期間に衣装合わせを行い、ダンス稽古前までに決定します。ダンスの振付の時には、どのような衣装なのか決まっていないと振り付けることが出来ません。
次はダンス稽古
歌稽古が終わる頃、ダンス稽古を始めます。ただし、創作ミュージカルの場合は、先に芝居の本読み稽古に入り、次の立ち稽古に進んで登場人物の位置などが決まった段階で、ダンスの振付を行います。作品や演出によっては、芝居の稽古を進行する中で、振付をする方が合理的な稽古進行になります。この頃から気を付けなければいけないのは、ねん挫などの怪我です。稽古用ダンスシューズなどの管理を徹底させ、すべってねん挫することが無いようにします。衝突などの怪我も警戒しなければなりません。女子は髪留めなどの金属やプラスチックの装飾品は使用せずゴムで髪留めするようにします。
本読み稽古
一般のミュージカルでは本読み稽古は数回で、すぐに立ち稽古に入りますが、日程が許す限り本読み稽古をします。それは本読み稽古が、作品の解釈や演出意図を理解するのにとても大切な期間になるからです。出演者にとっても、作品に対する自分の役の役割を理解するのに役立つだけでなく、役と自分の関係をじっくりと静観し、役の心理を突き詰める重要な時間となります。もちろんセリフを覚える期間でもあります。本読み稽古では、感情を入れずに棒読みに近い本読み方法や、感情を入れて情熱的に読む本読み方法、声を張り朗誦で行う本読み方法などがあり、演出方針によって本読み稽古を決定します。創作ミュージカルでは、この本読み期間中に、セリフの変更やカットなどを行います。
立ち稽古
いよいよ待ちに待った立ち稽古に入ります。稽古場に仮の大道具や、小道具、ビニールテープのバミリなどを準備します。立ち稽古は、最初演出家が、役の人物の出入りや行動線などを指示し、演出を始めます。細かく区切って、少しずつ演出していくのが一般的です。演出のイメージの理解や登場人物の心理を理解する絶好の機会であり、ここから俳優の創造活動が始まります。俗にいう役の人物になるということです。
芝居で本音を隠し、歌で本音を表現
セリフ劇では、セリフには書かれない役の人物の本音が、セリフの裏側に存在します。簡単な例を上げます。高校生の翔太君と萌さんがいるとします。翔太君は萌さんのことが好きなんですが、萌さんはそれを知りません。今日は二人が掃除当番で、翔太君は萌さんと二人きりなのでドキドキしています。その時、萌さんが「これ一緒に持ってくれる?」と言ってきました。机の位置を元に戻すようです。「ああ、いいよ。」といかにも普通に返事をしたのですが、観ている観客は、「ふふふ、翔太君、緊張しているね、かわいい。よっぽど好きなんだ。」観客は萌さんに好意を持っている翔太君の気持ちになり、ドキドキと興奮します。ここまではセリフ劇と同じですが、ミュージカルはここからが違います。机を動かした後、「あら、こんなに汚れている。」といって、萌さんが机を雑巾で拭き始めると、翔太君は客席を向いて歌い出します。「なんてやさしいんだろう。こんなにきれいにして。だから君が好きなんだ!ずっと前から好きなんだ!」と歌い出します。もちろん萌さんには聞こえていない翔太君の心の声。心の声はさらにエスカレートして、歌からダンスへ、なんと萌さんと一緒に幸せそうに踊り出します。そして音楽が終わると机を拭いている萌さんに戻ります。これがミュージカルの醍醐味です。
通し稽古
各場の通し稽古を始め、不自然な演技を修正し、さらに新たな演技を要求します。俳優の創造活動の最盛期です。俳優は、この時点で本番用小道具などの最終チェックをします。衣装についても衣装パレードといって、出演者全員がそれまでに衣装合わせをして調整済みの衣装を着て、各場ごとに居並び衣装合わせをします。ここで最終的に本番の衣装を決定します。そしていよいよ、各場を通した稽古を始めます。道具転換や衣装替えなどの物理的な時間も答えを出していきます。修正をするのは全体的な流れに対するもので、例えばこのダンスはもっと迫力が欲しいなどです。通し稽古後に経験の浅い俳優から喉の不調を訴えてくることが多く対応策を用意しておきます。通し稽古で喉を酷使したための、俗にいう「声枯れ」ですが、スプレイや薬を用意しておきます。
劇場入りしてゲネプロ
いよいよ劇場に入ります。当日劇場に大道具など搬入して劇場の舞台を作ります。場面転換稽古をして、その間に照明をつくります。みんなが休憩している間に音響が音量チェックを行う。客入れ状態からの場当たりをして、早替えを実際に実施し時間に間に合うかをチェックします。また、ダンスシーンの位置決めを行います。この時に便利なのが、舞台に番号をふっておくことです。(90センチごとにセンターから0,1,2・・・とナンバーをふっていきます。こうしてゲネプロと略称しますが、本番と全く同じことをやります。これで、本番までの準備はすべて整いました。後は本番を待つだけです。
一般社団法人 日本演出者協会広報部 篠﨑光正
トップ画像《ミュージカル「ジプシー」演出:篠﨑光正(主演宮沢りえ・鳳蘭)》