クロストーク
~オンライン配信の未来~
演劇と現代
「クロストーク ~オンライン配信の未来~」は、コロナ禍によって定着した新しい観劇スタイル「オンライン配信」について、その現状と可能性というテーマで、ぶっちゃけトークをしてもらうという企画です。
年代の違うふたりの演出家とプラットフォーマーの方、計3名をお招きし、クロストークを行いました。
《ゲスト》
日澤雄介氏
(劇団チョコレートケーキ主宰)
春陽漁介氏
(劇団5454主宰)
福井学氏
(株式会社ネクステージ代表)
《司会》
中村ノブアキ/桒原秀一(日本演出者協会広報部)
《開催日》
2024年3月3日(日) @ZOOMにて
中村 僕自身、オンライン配信の面白さと可能性を感じてはいるんですが、これからさらに広げていくためにはどうしていけばいいんだろうって日頃から思ってて、それで皆さんの意見を聞いてみようってことで企画しました。ちなみにここでいうオンライン配信とはライブ配信、アーカイブ配信問わずです。
それではまずはそれぞれオンライン配信との関わりについて話していただけますか。
福井 観劇三昧を運営しているネクステージの福井です。観劇三昧はアーカイブ映像を中心とした配信サービスを2013年8月から約10年運営していて、ライブ配信を始めたのは2020年7月からになります。いわゆるコロナがあって、そのときにライブ配信を手がけようということで、2ヶ月で開発を完了して配信にこぎつけました。
その当時の影響力というのは非常に大きくて、私達のキーフレーズの中に、「劇場の外側にも客席を創る」というキーワードをもとに運営していたので、オンライン配信だけでチケットが1,000枚以上売れる公演もあったりして、非常に手応えを感じました。ですが2022年、23年と進むにあたり、その数字は落ち着いてきているというのが現状です。
日澤 僕はやっぱり舞台はライブで観る芸術だと思っていたので、正直コロナの前までは映像配信とか、 DVD 販売というものにはかなり後ろ向きでした。ただコロナでステイホームと言われて、家から出るなってなったときに、劇団の過去動画を無料配信したんですね。そのときのお客さんの喜びがとても嬉しくて、それで2020年一発目の上演のときに、初めて配信をやりました。そのときは何とか観劇のライブ感を出せないかって思って、当時はライブ配信が技術上できなかったので、ゲネで撮った映像を上演時間に合わせて配信するということをやりました。19時開演だったら19時からじゃないと視聴できないようにしてすごく門戸を狭くしたんです。そしたらそれがすごく不評で、なんでアーカイブ配信なのにそれやんなきゃいけないのかって言われて(笑)。
それでそりゃそうだってなって、次から期間を逆にすごく伸ばして、ひと月丸々見れますよみたいなことをやりましたね。
中村 上演時間に合わせてっていうのは、その時間しか観れないってことですか?
日澤 そうです。演劇って劇場に入るとほぼ拘束されるじゃないですか。それがライブ感だっていう勘違いがあったんですよね(笑)。今思うと馬鹿なことをしたなって思うんですけど。
春陽 劇団としては、2021年5月のタイミングでライブ配信を始めました。その前から観劇三昧さんにはお世話になってて、過去の映像は全部お渡しして配信してもらってました。なのでオンライン配信に対しての抵抗感はまったくなかったです。その結果、5454の作品が高校演劇に選んでいただける機会が増えたりして、一般の演劇ファンだけじゃなく、演劇をこれからやりたいっていう人たちにもいろんな劇団を手軽に見れるプラットフォームとしてすごく意義を感じています。
僕が一番最初にライブ配信に関わったのは、2020年7月のアミューズさんでやった作品です。別に体調不良者が出たわけじゃないんですけど、無観客での上演にしたんです。ライブ配信の演劇としては早いタイミングだったんで、僕もどんな風にやっていいかわかんなかったんですけど、それこそ日澤さんが仰ったライブ感というものをどう出したらいいのかってことにすごい悩んで、舞台上にカメラを置いたり、カットワークをこだわらせてもらったりっていうことをしました。
中村 ちなみに配信に関して、ぶっちゃけ収支というか、投資とリターンは大丈夫ですか、とそういう突っ込んだ質問いいですか?
春陽 ライブ配信に関しては、元々毎公演 DVD を作成してたんで、そこまで予算を上げる必要がなかったし、逆に配信したことによって収入は増えました。
中村 なるほど。ありがとうございます。それで今、春陽さんと日澤さんが奇しくも言ってくれた“ライブ感”というキーワードについて掘り下げたいんですけど、そもそもオンライン配信における“ライブ感”って何なんですか?
春陽 正直わかんないんですけど、アミューズのときの企画では、チャットOKにしたんです。そこに僕も入って、作り手側のコメントも書き込んだりしてそれはそれで盛り上がりました。ただ、いわゆる演劇をちゃんと見る層にそれがアプローチできるかっていうと違うと思います。でもライブ感は確かにあったなっていう。
あとはやっぱりカメラの台数使って、たくさんの視点をつくるっていうのも、ちょっと浅い話かもしんないですけど、それもライブ感だと思いました。
中村 劇団チョコレートケーキでは、キャスト目線の配信をサービスとして展開されてますけど、それもライブ感のひとつと思っていいんですかね?
日澤 というか僕が求めるライブ感って、もはやオンラインでは無理なんじゃないかって思っています。演劇って、舞台があって俳優がいてお客さんに観てもらって完成するみたいなこと言うじゃないですか。やっぱり同じ場所にいて、お客さんの熱とか、俳優の息遣いとか、そういうのも全部ひっくるめてひとつの作品になるっていうのがそもそも僕の感じている舞台のライブ感なんだなって。それにはやっぱり劇場に集まらなきゃ難しいんですよ。それを映像でっていうのが土台無理な話で。
なので、今、うちでやってるアクターカメラっていう、 GoPro つけた目線の特典映像は、映像としてお客さんに楽しんでもらうひとつという考え方をしています。
中村 アクターカメラの評判はどうですか?
日澤 いいですよ。でもちょっと酔うんですよね。だから長時間観られないっていうのはあるんですけど。ただ俳優さんの目線でその相手がどういうふうに見えてるのかっていうのは、普通だったら観られないので、面白いって言われます。
中村 ライブ感について今まで作り手側から聞いてきましたが、福井さん的に何かありますか?
福井 私自身、演劇だけじゃなく、いろんな映像コンテンツを取り扱う中で、一番にユーザーが求めていることがライブ感なのか、それとも満足感なのかというところが影響してくると思うんですね。例えばこの時間を使えば映画も観れてしまうわけですし、お笑いも観られる、音楽のライブ映像も観られるというように、いろんな可処分時間の使い方がある中で、演劇を観たい人っていうのは、どちらかというとファンであるとか、その作品のシナリオだけでも読み取りたい人だとか、1回は舞台で観たけど、2回目3回目はライブ配信で観たいとか、いろんな使われ方があると思うので、私達にとってオンライン配信は文化継承手段の一つとして活用できると思っていて、あえて言うと、ライブ感というより、プラットフォーマーだからこそ平坦に見ているというところがあります。音楽で言えば、インディーズもメジャーも扱っている。それらをフラットにすることで、会員登録している23万人のユーザーが好きなようにコンテンツに触れることができる開放性が重要だと思っています。
中村 ちなみにコロナ禍を経て、観劇三昧を取り巻く環境って変わりましたか?
福井 今までは自分たちが道を開いていくんだっていう思いからやってましたが、今はいろんなプラットフォーマーが出てきているんで、選んでもらわないといけない側になってきているという感じです。
中村 ユーザー側での変化はどうでしょう?
福井 コロナがあってオンラインでも観られるんだという認知が広がったとまずは思っています。映像でも演劇に触れたいと思う人の需要が再認識できました。その顕在化したユーザーがどうなったかというと、2023年からはいわゆるリアル回帰というか、劇場に戻ってきているのではないかと思ってます。
そしてオンライン配信の価値は、劇場の席が足りない場合の代替手段でもあるというところです。それこそ映画館でライブビューイングとして演劇コンテンツが放映されることも増えてきました。いわゆる映像の利活用の部分に関してはまだまだ可能性はあると認識してます。
観劇三昧としても、活用の幅が広がっていくと信じて、プラットフォーマーとしての新しいあり方、新しい楽しみ方を目指し、提案したいと考えています。
日澤 福井さんが仰ったみたいにキャパ数以上のお客さんにリーチできるっていうのはやっぱりとても大きいし、東京以外の地域の方々にお届けできるっていうところはオンライン配信の強みだなと。そういう意味では今後もやっていく価値はあると思ってるし、国内のみならず海外っていうところにも視点を持っていきやすいので、ちょっと生臭いですけど、助成金関係で一番幅としては伸びてきそうなのがこの映像配信系ですよね。あと加えてバリアフリー化っていうか、字幕での多言語化っていうのにも個人的には興味があります。
春陽 コロナ前後で、お客様が増えた減ったで言うと、あまり変わってないイメージです。お客様の事情で劇場に行けないから配信観ますっていう方も結構いるので。
それでちょっと話が広がっちゃったらごめんなさいなんですけど、劇団を知る機会って今は折込ぐらいしかやっぱりなくて、それこそ観劇三昧さんに登録してる劇団いっぱいあるんだから、オンライン配信観たら、この劇団もあなたの好みじゃないですかみたいに表示されて、それきっかけで劇場に足を運ぶまで繋がればいいのにって思ってます。
中村 素晴らしい! 僕もぜひそれをやってほしいと思ってました。
福井 実はレコメンドエンジンの話は何度も立ち消えになった背景がありまして、いわゆる劇団AとBが似ているってすること自体が結構嫌われる印象だったんです。
中村 ええ! 実際にそういう話を聞いたんですか?
福井 いわゆるカテゴリー分けを最初に実施しようとしたときに、劇団側から、うちは別にコメディじゃないとか、若い人向けじゃないとか言われて、そうすると今度はカテゴリー分け自体ができなくて、カテゴリーの種類自体がものすごい増えてしまう問題が出てきてしまったんですね。さらにタグクラウドみたいなキーワードフレーズを散りばめて、関連化を生成しようという話も出たんですけど、今度それをユーザーに顕在化させようとすると、やはり劇団側からご意見をいただくこともあって、プラットフォーマーとして一般向けに情報公開したい内容と、各団体様の想いの部分が乖離してしまってレコメンドエンジン計画が失敗したんです。うちは配信とか物販含めて1,120団体ぐらいの方とお付き合いしてるんで、やはりそれだけ増えると、ご意見をいただくこともあって、取りまとめることが難しくなってきたのが現状です。
中村 うーん、難しい問題です。両方の意見がわかるだけに。でもぜひいつか実現してほしいと願っています。
日澤 そもそも観劇人口自体が減ってる中で、そういうことを言ってる場合じゃないって気もしています。若い人たちにどうやって届けていくのかっていうのは、見やすさも含めてなんですけど、考えていくべきなんじゃないかって、お話を聞いて思いました。「観劇三昧ではこういう分け方してます」っていう考え方を押し出していけばいいんじゃないかって思うし、自分の好みの団体を知るきっかけが増えていくっていうのはとても大事なことだと思います。
中村 本当にそうだと思います。僕もプラットフォーム側の考えだけで進めていけばいいと思いますけどね。とにかく観劇人口を増やす方が何より重要だと思うんで。
さてそれでは最後にそれぞれ言い残したことがあればお願いします。
日澤 映像配信って考えたときに、やっぱり僕は映像と舞台の親和性を取りに行くんじゃなくて、映像を使った別の新しい何かを質も含めて考えて行くべきなのではないかと。映画には勝てるわけがないんで、だったら別の新しい何かを考えるべきだと思いました。
春陽 カテゴリー分け、これは僕絶対やった方がいいと思います。若手って、僕もそうなんですけど、自分たちのジャンルってなんだろう、自分たちの強さってどこにあるんだろうって悩む団体も多いと思うんです。それを早く決めたところがやっぱ人気が出るしお客さんを集めてるのがすごくわかるんですよ。だから演劇界全体のためにプラットフォーム側から勝手にカテゴリー分けするとか絶対やった方がいいと思うし、逆に言えば演劇ってそれがわかんないからお客さんが何観ていいかわかんないってなってるし、一番の問題は、観てくれたお客様が友人を誘うときにキラーワードになるものがないってことだと思ってます。
福井 弊社では新しい演劇映像の楽しみ方を実現できる技術開発を進めていて、例えばメタバース空間で自分の見たい角度から舞台が観れたり、ユーザー同士が繋がれたりというような技術で、本当の意味で映像の利活用って、提供する側が決めるんじゃなくて、ユーザーがその活用の仕方を決めて、その中で演劇をもっと好きになれるような関係性が増えれば一番いいなというふうに感じています。
中村 皆さん、本日はありがとうございました。最後に桒原さんからメッセージを。
桒原 演劇の客離れが進んでいるんじゃないかと懸念されている時代に、どうやって新しく切り開いていくのか。少しでも希望を見いだして、次に進めるいい機会になったんじゃないかと思いました。皆様、本当にありがとうございました。
~クロストークを終えて~
3人のゲストの方の話を伺い、「オンライン配信」はコロナ禍を経てまさに今、進化すべきタイミングに来ていると感じました。それは単なる演劇の映像配信ではなく、新しい映像コンテンツとして楽しむことができる可能性です。そしてそれはきっと今は厳しいと言われる観劇人口減少に歯止めをかけることにもなりうるんじゃないかと。
さて、劇団のカテゴリー分け、私は絶対に進めるべきだと思ったんですが、皆様はどうお感じになったでしょうか?このクロストークの内容が議論の一助になるのであればこんなに嬉しいことはありません。(中村)