『地域で活躍する演出家』シリーズ:
前島宏一郎

演出家たち

【プロフィール】
前島 宏一郎(まえしま こういちろう)

劇作家・演出家・たまに役者。
茨城県を拠点に全国で活動するイチニノ主宰。(https://ichinino.jimdo.com/
「茨城発。全国行き。」を標榜し、地元での上演はあまり行わず、全国のあらゆる演劇祭へのエントリーなど、上演できる場所ならどこへでも出かけていくスタイルで活動。
濃密な舞台空間を創り、「ひとの心の機微、ひとのいる空間、ひとの熱い呼吸」を描くことを目標とする。
活動9年でのべ53地域で上演するとともに、必ず現地の美味しいものと酒をいただき、地域の演劇人と交流を深めている。
教文演劇フェスティバル 5回出場
新潟劇王 2回出場など、コンテスト形式の演劇祭に15回参加。
第10回せんがわ劇場演劇コンクール 出場
2024年7月13、14日に茨城県小美玉市との共同主催で「四季の里演劇祭」を開催する。

<茨城県・霞ヶ浦の風景>

 茨城で演劇活動をしています。正確には茨城でつくった演劇を全国で上演しています。

 茨城県は人口約280万人、47都道府県中11位の人口を誇る県です。人口だけでいえば広島県や京都府、宮城県などよりも多いです。したがって演劇人口もそれなりにいると思われます。
 しかし、ひとつ特徴があります。
 目と鼻の先に東京がありますので、志を持って演劇の道を目指そうとする人は東京に出てしまう方が大半で、地元で演劇をしている方は、茨城を選んだというよりは「消極的理由」で茨城で演劇をしている人が多いような印象があります。

 私自身もご多分に漏れず、しかし地元の茨城という場所が好きで、地元で16年間、自分の劇団を持って活動してきました。
 長くやっていれば当然評価をしてくれる方もいますが、創作の中心がいわゆる「分かりやすくて笑える」というような大衆受けする演劇でないものであり、言葉を選ばずいうと「異端児」扱いをされていました。(のちに全国で様々な演劇を体験すると、全然異端でもないことがわかるのですが)
 コアなファンは評価してくださいますが、客席の大半を占める「顔の見知ったお客様」が正当な評価をしてくれているという実感がなかなか得られなくなりました。

 結果としてその劇団を閉じることとなり、別の活動を始めようと思った時、現在主宰する「イチニノ」のコンセプトが生まれました。それは「茨城という土地で生まれた芝居を、我々を知らない全国の方へお見せして、評価をしてもらう」ことでした。その結果、「やっぱり面白くないや」と言われるのであれば、そこですっぱりとやめればいい。評価をしてもらえるのであれば、続ける価値がある。とりあえず1年やってその判断をしてみようと、そう思いました。

<イチニノ『ランダバウト』(2018.9)>

 そもそもそんな思いになったきっかけは、東京国際芸術祭2008に参加していたゼロソーさん(熊本県)の作品に触れたことでした。その際にリーディング上演をしていた『アクワリウム』という作品は自分にとっては衝撃的で、のちに地元熊本で上演をすると聞いて、初めて首都圏ではなく地方に出かけて観劇をするという体験をしました。

<熊本地震後、ゼロソーさんにチャリティ公演の義援金を届ける(2016.10)>

 我々は茨城県で芝居に挑んでいますが、もっと東京へ出づらい地域の方々はどんな思いで地元で芝居をしているのか。もちろん消極的な理由の方もいらっしゃるでしょうが、積極的にそこでやる方もいらっしゃるでしょうし、様々な環境(職業を持ちながら、家庭を持ちながら、子育てをしながら……)の中で芝居を続けている人たちはどんな思いで作品づくりに取り組んでいるのだろうか。そんな声を聞きたくて。

 地方の演劇祭に出させていただく機会では、(元々コミュ障なものを、勇気を振り絞り)できるだけ交流を図ることに努めました。
 結果、「イチニノ≒酒飲み集団」という認識を持たれることもままですが(笑)、活動を始めてほどなく、 地域間交流は自分たちの活動目的の主になりました。

<教文短編演劇祭2017参加(2017.8)>
<せんだい卸町アートマルシェ2020参加 イチニノ『清掃員A虚無』(2020.9)>
<第11回マエカブ演劇フェスティバル2023参加(2023.9)>
<出かければ必ず地のものをいただき、地域演劇陣と交流を図る>

 日本劇作家協会が取り組む「劇王」スタイルの演劇祭や、せんがわ劇場演劇コンクールへの参加など、自分たちの作品を様々な視点で評価をいただきながら、また様々な思いを持って活動している全国の演劇人と交流をしながら活動を続けてきました。

 果たして「これなら続けられる」というような手応えを得られたと言えるかははなはだ疑問ではありますが、かといって「退場しろ」と言われるほどダメダメでもない、などと繰り返す日々ではあります。
 しかし、自分たちの芝居はもちろんですが、地域で力強く活動している演劇人の姿や作品は非常に勇気づけられるもので、自分たちも頑張らねばと思い直す機会の連続でありました。

<イチニノ『そっと左手を添えてお釣りをくれるかわいいいコンビニ店員野沢菜菜さんとの秘密の出来事・in・ブルー』盛岡公演(2021.10)>
<イチニノ『おしまいのつづきのつづき』札幌公演(2023.4)>

 そんなことを繰り返しながら、気づけば10年。
 地域間交流のひとつの終着点として、全国の素晴らしい演劇人たちを茨城へお招きするという目標を、2024年7月、「四季の里演劇祭」という形で決実させます。

 茨城は、演劇という視点からも、またいわゆる一般的な観光という視点からも、 あまり足を運ばれる地域とは言えません。ですから、「生きてるうちに一度くらいは茨城へ」という思いでこの演劇祭を開催します。
 全国公募を行い、コンテスト形式の「茨城劇王」とサーキット形式の「四季の森シアターフェスティバル」の2本の演劇祭を同時にやるという酔狂な企画に、北海道から九州までの計33団体が名乗りを上げてくれました。

 「茨城劇王」は、他地域の劇王と同様、お客様と審査員の投票により「その日の一等賞」を決める大会です。過去に地元の演劇祭で、審査員の講評を入れるよう提言したときに全く取り合ってもらえなかった経験があり、いつかこれを茨城で……と考えていました。茨城で長く演劇に取り組んでいる地元の方には、他地域の演劇の姿と審査員の言葉により、自分たちの演劇を全く別の視点から見つめ直す、贅沢で絶好の機会になると思います。

 「四季の里シアターフェスティバル」は、音楽フェスの演劇版というような、エリア内の好きな場所で同時多発的に上演をしてもらうという演劇祭です。こちらは、「演劇って敷居が高いものだよね」と思っているような方にも、舞台じゃなくても、長時間椅子に座らなくても楽しめる、気軽に演劇というものに触れられる機会になると思います。

 そんな初期構想に対し、公募をかけたところ想定以上に多くの方が参加の声を上げてくださり、これが地域間交流のひとつの形だと、喜びつつも準備を進めています。
 ぜひこの機会に全国から、熱い思いを持って演劇と向き合う地域演劇人の姿を目撃しにいらしていただければ嬉しいです。

 そもそも人口減少の時代の中、生産効率が高いとは言いにくいニッチな「演劇」が地域で必要とされる道は、地域の人間が視野を広げ、様々なチャレンジをしていく中で見えてくるものなのかなと思っています。
 コロナ禍を越え、WEBでつながりやすくなったという一面がある各地域の演劇ですが、だからこそ視野を広げて汗をかいていくことが、自らのレベルアップにつながり、地域間演劇のいい意味での相乗効果につながっていくことを願っています。その一助となれるよう活動していければと思います。

<四季の里演劇祭チラシ>

\この記事をシェアする/

トップに戻る