特別対談:
ファン・ユー×小川絵梨子
「これからは団体戦で交流を」
インタビュー
言葉の壁を越え、日本の戯曲をそのまま紹介したい
台湾の三つの国立劇場はそれぞれ戦略が違う
日本でいうと1970年代に先輩たちが国同士の交流の礎を作ってくださったから今こういう機会があると思うんですが、今後の交流に向けての展望をお願いします。
ファン 基本的な問題は、台湾には日本の演劇に対する知識がないことです。演劇はやっぱり言葉の壁があるので難しいですよね。例えば日本の作品を台湾でやったときには必ず字幕がありますが、日本の感覚では字幕を読むことに慣れていますか?
小川 どうなんでしょう。私はニューヨークにいたから字幕文化で育っているので慣れちゃってるんですよね。
日本人は映画の字幕は慣れていますが、演劇となると慣れてはいないと思います。
ファン 台湾の現代演劇は言葉が多いので、海外ツアーに不向きではないかと思います。ですからたまに海外に行くときには、シェイクスピアやチェーホフなどみんな知っている物語でやったほうが大丈夫と考えていて、自分の新しい脚本ではなくクラシックの脚本でやることが多いです。
小川 さっき言ってくださったみたいに、お互いの演劇をよく知らないので、まずは台湾の方に日本の戯曲や演出家、作品に興味を持ってもらえるような企画をしていくことがすごく大事なのかなと思っています。そのとっかかりとして、例えば台湾の戯曲を読みたいと思ったら、どうアプローチすればいいでしょうか。
ファン そうですね。台湾では戯曲を読みたい方が少ないかなと思いますね。
小川 あまり出版はされていないんですか?
ファン マーケットがありませんので、あまり。アワー・シアターでは脚本ファームで定期的に新しい脚本を発表してリーディングをしている仕組みはあちこちにありますけど、出版することはほぼないですね。英語訳が少しありますが、日本語訳はほぼないです。台湾でも日本の戯曲を読みたいですが、日本語ができないので、言葉の問題を解決しないと。
小川 そうですね。日本の戯曲は実はたくさん英語化されています。出版されていたり、もちろんネット上で検索ができたりするんですけど、英訳されていると、とっかかりとして台湾に対して発信しやすかったりしますか?
ファン 英語にすると、文化的な部分も雰囲気が全然違いますよね。ですから、翻訳通訳の問題を解決したいですね。台湾と日本の劇場の連携またはコラボレーションでシステム的に、この二つの国の戯曲を交流したいです。英語訳ではなくそのままの脚本を紹介したいです。それには一人ひとりのアーティストまたは一つひとつの劇団の個人戦という形より団体戦の方がやりやすいのではないかという気がします。
小川 その方が動きやすいし、できることも多いってことですね。台湾自体はいろんな国と、劇場がコラボレーションしたりつながったりということが多い印象なんですけれども、そうご覧になっていますか?
ファン そうですね。台湾は小さい国ですし、政治的には中国とのことがありますので、国際文化交流の方がしやすいのではないかという考えが昔からあります。演劇では、欧米との交流が圧倒的に多いです。芸術大学の演劇の先生はフランスやドイツに留学した方が多いので、欧米に傾いているのではないかと。ですから東南アジアや日本、韓国など再びアジアを視野に入れてきたのはこの5年くらいです。本当に最近のことですね。
小川 それが今変わってきた感じがあるということですね。
ファン はい。特に、香港、マカオ、シンガポール、マレーシアなど同じ中国語圏の国との交流が多いですね。中国系の東南アジア人が多く、中国語ができる方が多いので、台湾の演劇作品もそのまま字幕なしで上演可能です。
小川 韓国と台湾はどんな交流があるんでしょうか。
ファン この2、3年は韓国のミュージカルが台湾でよく上演されています。現代演劇は中劇場と小劇場の間の交流がありますが、国立劇場レベルの交流は少ないですね。
小川 韓国の発信する韓国で作られたミュージカルが台湾でやられることも?
ファン そうですね、それはやっぱりKーPopと同じで台湾で盛んです。
小川 そういうときは字幕になるわけですか?
ファン はい、字幕です。日本の『デスノート』のミュージカルは、台湾では日本版と韓国版両方やっています。
日本でも韓国のミュージカルが気になり始めている人たちが多いんですけど、台湾では韓国のミュージカルはもうみんなオッケーという感じですか?
ファン 全然オッケーです。台中の国立劇場のアートマーケットは新しいですが、その戦略の一つはミュージカルです。集客しやすいですので、日本のミュージカルの『デスノート』とか、韓国のミュージカルもよくやらせていただいています。10年前は台北の国立劇場だけでしたが、5年前に台中、3年前には高雄に国立劇場ができました。高雄の今の芸術監督は指揮者ですので、クラシック、オペラなどの音楽系がメインです。野村萬斎さんの狂言は高雄の国立劇場でやらせていただきました。これらの三つの国立劇場は一つの行政方針(国立パフォーミングアーツセンター、日本の独立法人に類似する仕組み)の下で運営され、それぞれマーケティング戦略は違います。ですから日本の作品をやりたいですけど、それぞれやり方は違いますね。
先ほどおっしゃっていた団体戦というのは具体的にどういうイメージなんでしょうか。
ファン この前は台北の国立劇場と東京芸術劇場とで作品交換する話もありました。そして台北アートフェスティバルと東京フェスティバルも交流があります。やっぱり機関と機関、またはフェスティバルとフェスティバルの連携があった方が交流しやすいのではないかなと思います。
台湾には演出者協会みたいな、演出家だけの職能団体はあるんですか。
ファン 役者とかスタッフの組合や協会がありますけど、演出家だけはないです。今年はコロナの影響で演出家も台湾の演出家協会を作りたいという話が出てきました。
じゃあ作りましょう。
一同 (笑)
日本演出者協会も、もっと強くアジアとつながっていきたいなと思っていますので、そういうところで力を貸していただけたら嬉しいです。
ファン ほんとに、2021年は東日本大震災から10年目となる節目ですよね。台湾は政府も民間も第三部門も、2021年を台湾と日本の友情の年にして、これからより進化した文化交流活動をしていこうという話があります。
小川 ありがとうございます。私も台湾に行きたいです!
ファン ぜひ来てください。一緒に良い作品作りましょう。