特別対談:
ファン・ユー×小川絵梨子
「これからは団体戦で交流を」

インタビュー

観客は演出家を目当てに劇場へ行く 
演出家の特大ポスターは名物です

小川 日本では劇作家と演出家が一緒ということが多いんですが、台湾ではどうですか?

ファン 台湾もそうです。でも演出家と劇作家が別々の場合、演出家の方が地位がより高いので、作品を作るときに演出家の方が主導権を握ることが多いですね。

小川 地位が高いと考えられるのは、ポスターやパンフレットの名前の順番だったりとか、ペイメントとか、その辺でも顕著に感じられますか?

ファン 名前の順番は絶対そうですし、例えば観客は、演出家の作品を観るために行くことが多く、逆に特定の劇作家の作品を観に行くことはほぼないですね。

小川 そうですか。日本では、もちろん演出っていうのもありますが、割とよく「この劇作家の作品が今すごく面白いよ」という話を聞いたりするんですよ。台湾ではそのかわり演出家のカラーが強いってことですね。

ファン はい。極めて、圧倒的に。

流山児さんが「阮劇団(アワー・シアター)」の公演で市に行った時も、恐ろしいサイズの流山児さんの顔写真入りポスターがたくさん並んでいて(笑)、流山児さんが「俺を観に来るんだよ」って言っていました。

ファン あのポスターが名物ですよ。流山児さんは台湾ではアンダーグラウンド劇場の王様として見られています。台湾の観客は演出家の視点を求めて劇場に行くことが多いです。演出家のやり方が、劇場に行くかどうかの決め手ですね。

チケットが安いので若い世代が気軽に劇場へ行く
公演だけでなく日常の運営にも助成金があります

日本は結構高齢化社会の影響があるのか、最近若い人たちの演劇でも観客の年齢層が高くなってきていると感じます。台湾の観客の層はどういうイメージなんですか?

ファン メインは25歳から45歳、この年齢層が多いです。

小川 へぇ~。若い!

ファン 若いですよね。よく外国の劇団の方にも言われます。

25歳くらいの方が演劇を観ようという風になっている理由って何なんでしょう。

ファン 一つ目はやっぱりチケット料が日本より安いことですね。三分の一とか二分の一くらいの値段で劇場に行けることです。例えば映画などより少し高いくらいですから、レジャーとして劇場に行くことはそんなに経済的に負担になることはないと思います。

なぜそんなに安いんですか?

ファン もちろん国や地方政府の補助金もありますし、最初はやっぱり多くの観客をつかむことですので、プライシングをそんなに高くしない方がいいんではないかなと。これはマーケティングの戦略ですね。

小川 公演期間は一般的にどれぐらいあるんですか?

ファン 基本的には一週間くらいと短いです。普段は一週で、金曜と土曜は多分二回、日曜は一回の計四回公演です。

小川 日本の我々に置き換えて考えたときに、ぞっとするくらい絶対に採算が合わないって思っちゃいますね。採算どころか全員が持ち出すんだなっていう気持ちになってしまう。

ファン 例えば台北国立劇場でいえば、ボックスオフィスの収入は多分全体の収入の三分の一にも及ばないですね。ですから国の補助金や企業の寄付でやらないと、ボックスオフィスの収入だけではできないです。

小川 国の補助金や企業の寄付というのはどれぐらいの比率になるんですか?

ファン 台北の国立劇場でいえば、一公演の予算のうち50%が国の補助金、25%が企業の寄附、25%がボックスオフィスなど他の収入です。普段の劇団なら国と企業とボックスオフィスが三分の一ずつという形です。

小川 それが全然違います。民間の劇団やプロデュース団体というのは基本的に、国からの支援という概念もないし、企業が立ち上げている助成金もなかなかないので、ほぼボックスオフィスで賄っていかなくてはならないというのが現状かなと思います。

ファン 今台湾では今度のコロナの影響で、ほとんどの劇団が国または地方政府の助成金がないと成立できないことを検討すべきだという声も多いですよ。

国などの助成金は、先に支払われるんですか?公演が終わってから支払われるんですか?

ファン ほとんどの場合、先に半分、公演後に残り半分が支払われます。または三分の一ずつ三回に分けてということもあります。公演前に全額の支払いはほぼないです。

そこがまた少し違うところですね。日本の場合は途中で一度、概算払いとう少し支えになる金額が支払われますが、後は公演が終わってからです。この申請のための手続きがとても大変なので手を出しにくいんですが、台湾はいかがですか?

ファン そこは台湾も一緒です。でも台湾の助成金は、公演ベースの助成金だけではなく、日常の運営のための助成金もあります。スタジオのレンタル料とかスタッフの給料とかですね。申請の時期も資料も違いますので、マネージャーたちは大変です。

小川 スタッフの給料とか⁉︎ それには応募できる資格条件みたいなものはあるんですか?

ファン あります。NPOという形で劇団や舞踊団を成立しないと申請できないです。それもまためんどくさい手続きがありますが(笑)。年間公演数や観客数、スタッフ数などいろいろな要求があります。

小川 なるほど。

投票は選挙日当日の8時間、本籍地のみだが
大統領選挙の投票率は74.9%

先ほどの話の中で気になったんですが、台湾の方々は国の助成金の使い方だったり、政治に結構関心が高いんですか?

ファン 高いと思います。2020年1月の大統領選挙を例に挙げると、投票率は74.9%でした。年齢別の投票率の統計がないですが選挙前の世論調査によりますと、当選した大統領の支持率は、40歳が分水嶺で、40歳以下の有権者の支持率は圧倒的に高かったです。それが今回の勝因だとも見られています。

特に若い世代の投票率が高いのはどうしてですか? 

ファン 台湾は日本と同じく、高齢少子化が進んでいます。そして若い層は、非典型労働問題、資産形成できないなどの問題に迫られています。自分の未来を団塊世代、または資産のある高齢層に渡したくないなら、投票するしかないという危機感があると思います。台湾では、初めて選挙権を得て1票を投じる若者たちを「首投族」と呼びます(台湾では20歳以上に選挙権あり、「首」は「最初」を意味する)。総統選で、この首投族が大きな力を発揮しました。しかも、台湾では期日前投票がなく、投票時間は選挙日当日8時から16時まで、そして自分の本籍地でしか投票できません。ですからこの74.9%の投票率は、日本の投票率と比べると「熱狂的に」高いと思います。投票することは、価値観を共有することですね。それは台湾流だと思います。もちろん、選挙の日当夜(お酒を飲みながら)家族や友達と一緒に開票番組を見るのも、台湾式だと思います。

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