若手演出家コンクール2023 優秀賞受賞者インタビュー〈広報部〉大信ペリカン

大信ペリカン(シア・トリエ)『 驟雨 』

―― 初日を終えての気持ちは?

大信
ほんとうに幕が開いてよかったなと思います。けっこう仕込みの物量も多いし、実は他に仕掛けもやろうと思っていたんですけど、さすがに仕込めないと思ったのでそれは諦めまして……。先週、地元で行なった試演会ではやってみた仕掛けもあっのですが、自分でも納得のいく出来ではなかったので、それはやめてよかったなというところです。

―― 今回の脚本を選んだ理由は?

大信
もともと「外側から見る」お話が好きなんです。チェーホフも好きですし。今回のコンクールでは1時間というレギュレーション(制約)があるので、けっこういろいろな作品を読んでみたんですけど「やっぱり岸田國士(の戯曲)だ」という感じで(笑)。岸田國士の戯曲は二度目の上演で、以前は『紙風船』を上演したこともあります。

―― かなり昔に書かれた戯曲ですよね?

大信
どちらも約100年前に書かれた作品にしては、とても先進的な感覚だと思います。「現代の作品だ」と言われても自然に感じるなあと。そのような脚本の普遍性に対して、挑んでみる可能性を感じました。まず今回は演出の仕組みを二つ思いつきまして……。ひとつは「ラストシーン」。みんなでわちゃわちゃして、しまいには「恒子(つねこ)が乳首をつねる」という……ダジャレですけど(笑)。もうひとつの仕組みは「家政婦が隣の空間で煎餅を食ってる」っていう、この二つを思いついたんですね。この二つのプランを思いついて、何とか行けるんじゃないかと思いました。

―― ラストシーンの印象は強烈でした

大信
(笑)。逆にあの時間がないと「フツーの岸田國士の『驟雨』だな」と感じてしまうだろうし、若手演出家コンクールですから、『驟雨』をふつうにやったらインパクトが弱いかな、と。

―― 昔の戯曲をお客さんに楽しんでもらうために心がけたことや難しかったことは?

大信
心がけたのはオープニングです。お客さんは、「岸田國士の『驟雨』」って言われると、きっと身構えるんですね。それをいかに早い段階で取り払うか、という課題。辿り着いたのは、まず私が前説で登場してわちゃわちゃして、さらにそれから歌になる、という始まり方。難しかったところは……「言葉」。基本的に戯曲の言葉は変えていません。ただ部分的に「きしょ(=気持ち悪い)」って言わせてみたり、というのはやりました。言葉についての難しさは二つあって、「100年前の言葉」ということと、「東京山の手の言葉」ということが、我々は福島の人間なので、やはりそこは難しかったですね。

―― 大信さんが思う演劇の魅力、そして今後の活動でやってみたいことは?

大信
「お客さんの反応をいかに揃えるか」という、作り手の醍醐味。芝居を観ているお客さんたちが同じ感情になるように導くにはどういう空気感を作っていけばいいのか、ということを究めていくことがおもしろい。それを我々は「ムード」と呼んでいるのですが、それをいかに作っていくか。前説の役割もそういうことなんですが、実はアレ、一度も成功したことがないんです(笑) だいたいの場合、役者たちが出てくる前に私が滑り散らかして、みんなを辛い思いにさせる、という……(笑)。

―― 大信さんのお人柄なのか、どっちに転んでもアリなのかなと思いましたよ。

大信
だといいんですけど、なるべくあの時間は短くしようと思ってます(笑)。今後やってみたいのは、演出家としては別役実作品に挑戦したいです。戯曲はすごく面白いけど、今まではとても怖くてできなかったので。いよいよそこに挑戦してみたいなと!

聞き手 日本演出者協会 広報部 緑川憲仁

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