若手演出家コンクール2020
『最終審査会』【 講 評 】
報告〈広報部〉
最終審査会を担当した審査員は下記8名。
鵜山仁(文学座)加藤ちか(舞台美術家) 坂手洋二(燐光群) シライケイタ(劇団温泉ドラゴン) 日澤雄介(劇団チョコレートケーキ) 平塚直隆(オイスターズ) 山口宏子(朝日新聞記者) 流山児祥(日本演出者協会理事長)
尚、今回4作品の観劇が出来なかった わかぎゑふ(玉造小劇店・リリパットアーミーⅡ)はオブザーバーとして審査会に出席した。
今井尋也<東京都>
『シルクロード能楽会「道成寺」疫病譚』
【シライケイタ】
僕はすごい感動しました。楽器の力と人の声の力でここまで劇世界に客を引きずり込むことができるのが、演劇体験の中でも僕にとってはまれな体験で、舞台美術も、ここに能舞台を出現させようというのはとても潔くて。
僕はこの空間で、見事に1000年を超える時間をつなぐ努力が成功したなと思ったし、その演出に感動しました 。
【平塚直隆】
普段、能の舞台なんか見てても、なんかもう長いし遅いしいつも眠くなっちゃう。だから見やすく見やすくしてくれてるなと思って。お客さんには、これから他の色々な能の劇を見せてくれたら、見やすいし、わかりやすいなと思いました。僕はこれからも見たいです。
【坂手洋二】
四人のミュージシャンの方々に 圧倒されて堪能しました。ホーミーで象徴されるように、 いろんな違いを持つものが合わさっている。重ねるイメージという意味では、演出家の仕事としては「お客さんのピントを合わせてあげる」というものがある気がするんだけど、これだけいろんな人が出てくる時にそれがもう少し出来ないかなと思った。
國吉咲貴<埼玉県>
『おもんぱかるアルパカ』
【加藤ちか】
大変面白く拝見させていただきました。やっぱり本が面白いんですね。
ただ、本で書かれた内容を、演出表現ではこうなる、やりたい事は何か、何を見せたいか、が良くわからなかったです。
しかし、私はああいった身体や、ああいうものの言い方、気持ちと身体のバランスの悪さが、今の日本のありように感じます。 一年後の私たちの世界っていうのを、ああいう風に非常に鮮烈で、しかも一言も現実的なワードを出さないで、でも、今私達がいる場所はこういう場所なんだなっていうことを、切実に見せてくれていたと思います。
【山口宏子】
変わったことを見せようと奇を衒ったところがなく、言ってしまえば簡単でわかりやすい作品です。何が起こるんだろう目を見開き続けても、何も起こらない。それなのに、とても魅力があり、目が離せない。
とても独創的な舞台でした。作品を牽引しているのは言葉で、戯曲にずば抜けた力を感じました。國吉さんの舞台はこれまで数本観ていて、どれもいい作品で面白かったのですが、演出面で「飛び抜けた何か」を見つけることができなかったのが、とても惜しい気がします。
活躍してほしいと期待している演出家の一人なので、ぜひ、次は「よくまとまっている」という現状を突き破る演出の力が加わった舞台を見せてほしいと思います。
【流山児祥】
國吉さんは今井さんと対極にいる演出家だと思う。國吉さんの芝居は凄いテンポで快走する漫画みたいだよね。僕は、漫画をほとんど見ないから、國吉ワールドを観ていて「分からない」コトが多多ある。でも、その多くの「分からない」ところが面白い 。國吉さんは、別役実さんの不条理喜劇に似たモノを創ってるんじゃないかな?だから、もっと、嗤えない黒い喜劇を目指してほしい。「分らない」ことを引きうけた演劇的冒険です。でもって、喜劇って「体力」がないとやれないし観れない。もっと、体力を持った國吉喜劇を見たいです。こんなに芝居好きなひとも滅多にみないが、まだ俺の方が体力あるぜ!と張り合ってみたくなった。もっと「あんたなんかに分ってたまるか!」といった作品を創ってください。
伏木啓<愛知県>
『The Other Side – Mar. 2021』
【わかぎゑふ】
私は「何回も見たい」もので「完成するもの」じゃないんだろうなと思いました。特に入ってきた時から空間の演出をちゃんとなさってるなと思っていて。過去と現在、そこに定期的に落ちる水と、そこに写ってる斑紋が定期的とは違うものになっていて、確実性のあるものが、過去である必要がないという定義で見ると凄く楽しい作品だったと思う。
【加藤ちか】
ビデオ審査から見させて頂きましたが、見逃しっていうよりは、まだ感じられるところがあるんじゃないかと思って、もう何度も何度も見ました。
画力や作品力のある人が大きい所での作品つくりを得意とするっていう事は当たり前なんです。ですが、「逆にこの小劇場にきて何ができるんだろう?」とか、「ちっちゃいところで見たらこういうものは全然面白くなくなっちゃうよ」とか、「いやいやそんな事はない、小さい所でやる所をみましょうよ」と言われて選ばれてきた事を私は記憶しているんです。
この小劇場に来ても何の遜色もなくメッセージをきちんと伝えられていたし 、この舞台ためにブラッシュアップしてきたっていうのもかなり感じられました。 私は、計算しつくして全部やりきっていらっしゃったなって言うところまで、かなり見落としなく見れたと思って満足してます。
【鵜山仁】
映像とか出演者の質感とか、いろんな意味でインストールされてるものは面白かったんですけど、最初に申し上げた「演出かくあるべし」という点からすると、やっぱり幇助することで「成長」ないし「瓦解」、何でもいいんですけど。「変化」をして欲しいっていうのがあって。
一言で言うと「映像、もっと怒れ」。むちゃくちゃですよね(笑)。そういう事を感じちゃう。だから悪い意味でインスタレーションとか言われちゃうんじゃないかな?だからそこが残念だなぁと感じました。
三上陽永<東京都>
『見てないで降りてこいよ』
【シライケイタ】
去年より格段に良かったです。本当に同じ人が作っているのかってくらい感動しました。で、何に感動したかって、取り立てて演劇的に新しいことがあるとは言えないんですが、でも鮮烈かって事だけでもないと思うんですよ。こんなこと言ったら失礼かもしれないけど。僕はすごいシンパシーを感じたし、生きるって何だろう、人間って何だろう、舞台上で人と人が出会って変化して行くって事を感じました。
【平塚直隆】
なにしろとにかく好ましいし、懐かしいなって思って見ていて。 演劇始めた頃だったら大好きだっただろうなぁとかって思ったんですけど。でも今の僕にはちょっと「いい話」すぎちゃって「あのちょっといやいや、泣かせようとするなぁ!」みたいな感覚になっちゃって、ちょっとその辺が「あのぉ…」って来ちゃいました。 いや「それの何がいけないんだ」って言われると困っちゃうんですけど、ストレートで全然いいんですけど。まぁ僕にはちょっとそれが、うん。ちょっと強かったなって思いました。
【鵜山仁】
僕も色々な意味で、サービス精神と言うか、心地よく見させてもらって、何か演出部まで衣装替えして、ああいうのって本当に嬉しくなっちゃっう。ただ作り方として僕の印象ですけど、やりとりの臨場感という意味で、(自分に)入ってから出てくるものより、発信する方がちょこっと早いような感じがするんです。で、それは、客席に対するアピールの方に軸足が行ってるていう感じが少なくとも最初の方はしていて。そういう作り方っていうのは、僕にとって勿体ない作り方だなと。
【日澤雄介】
ご自身のやりたい方向みたいなものが色濃く出ている作品だなと思いました。その中で アナログでと言いますか、力技でと言いますか。いわゆる雑な方法を、いかに駆使して面白く見せていくかっていうのをすごく苦労して考えていらっしゃるんだろうなと。それが多分やりたいことであり三上さんの強みなんだろうなと。スタンダードな話を普通にやるって言うのは全然悪いことじゃなくって、むしろそこを突き詰めていくと個性になり、オリジナルになると思います。
広報部 担当 廣岡凡一