若手演出家コンクール2019最優秀賞受賞記念公演深谷晃成 第27班 presentsインタビュー〈広報部〉
『ゴーストノート/西には悪い魔女がいる』
脚本・演出 深谷晃成
2021年3月10日(水)〜14日(日)
@下北沢『劇』小劇場
去年と今年。コロナ禍において変わったことはありますか?
-深谷-
一番変わったのは、開場中に弾き語りしようとしたら劇場さんにもうちょい奥でって言われたことですかね。「あーそっかそうなるか」って。…飲みまわしとかも、どれだけ危ない表現になるのかって感覚的にはわからなくて。一応続投はしたんですけど、一瞬やっぱり稽古場で、これはお客さんから見たらどうなの?みたいな。
賞をとって変わった事はありますか?
-深谷-
去年、演出家コンクールに応募した時に目標としていた『自己紹介に一行足す』っていうのは達成できたので。それが出来たっていうのが一番嬉しかったですね。劇団にするとそういうものがなにもなかったのですし、学生の時にとった賞でずっと止まってたので。名実ともに誰かにクオリティーを保障されるっていうのが、ようやく一つついたなって。
それが凄くよかったです。
深谷さんの作品は、どれもキャラクターに無理がないと感じました。
俳優に寄り添っているような感じがするんですが、その辺についてはどうでしょうか?
-深谷-
ゴーストノートは結構あて書きだったんで、そこはたぶんそういう理由だなとは思うんですけど。『西には悪い魔女がいる』はギリギリまでちょっと配役を決めあぐねてて。「一番あうやつにしよう」みたいな。僕は大学で技術を学んできて、演技の独自のメソッドみたいなものがあって、それをもとにやっているんです。それができてやっと会話劇になる。だた、それだけを守ってやっていても、その人っぽくなくなるのですけれど。
結局、技術は「お客さんにチケット代を担保するまでの最低限」なんです。お客さんが3800円出す価値があるものが「演技の技術」だと思うんです。そっから先、「3800円安すぎたな…」みたいな感覚にさせるには、どうしても役者さんの内側から出る魅力みたいなものが必要で、それを(役者に)出してもらわないとダメだなっていうのは最近思って。そこはちょっと皆さんにお願いはしています。それの部分が今回そう思っていただけたんだったら、功を奏したのかなと。
役者の魅力を引き出すのがすごいなと。
それはきっと演出の力なのか?と思いましたが・・・。
-深谷-
それは役者さんの力ですね。ただ、「オリジナルの言葉がほしい」っていう風には 稽古に一番最初に入った時思いました。演出や脚本っていうのは僕の言葉で、役者さんから出てくるオリジナルの言葉みたいなものが見えたいなと思って。今回もコロナでこの1年演劇をやっていなかったんですけど、ワークショップをやっていて。僕がいろんな人に教えていく中で、僕の中で演劇に対してのオリジナルの言葉があるっていう事に気がついて、そのオリジナルの言葉を聞いた人達も、また自分の中で「こういうことなのかな?」みたいな事が生まれてきた時に、そこに「愛」があるなあっていうのをワークショップの中で見つけて。「何で好きなのか」とか「何でしたいのか」っていうことを、考えて考えて考え抜いた先、誰にもたどり着けなかった言葉にたどり着けた時、その人そのものに対しての愛が出るなと思って。僕はそのワークショップの中でこんなに言葉があるんだっていうことを知れたのがすごく良くて。それをみんなにも出してほしい、僕だけの言葉じゃなくて、みんなにも出して欲しいっていうのができたんじゃないかなと。
深谷さんの言葉、オリジナルの言葉でのワークショップとはどういう事でしょうか。
-深谷-
会話劇では「とぼける」っていう単語を使ってるんですけど、
「あれ?」とか「~じゃないですか?」「え?お前これやったの?」「お前、これ好きなの?」等、
基本的に会話劇はこれ一本で120分できると思っていて。
本心を内側に隠すことによって、お客さんはその本心を読み解こうとするみたいな作用ができるっていうことが、結構僕たちのメソッドの礎になっているんです。
それを徹底していて、多分そこまでが僕の言葉で、その先に、とぼけた先にどういう魅力を出せるのか、土台を作った時に、そこから逆にとぼけない時にどういう選択をするのかとか。
『とぼける』というのをはじめて聞きました
-深谷-
僕は大学の教授に「とぼける」を教わって、それをずっと四年間ぐらい学びました。 演技にはもっと基礎の基礎が必要だなと思っていて、「とぼける」っていうのは日本語に対して一番ベストな様相だなと思ってるんです。特に、演技っていうのは嘘をつくことなんで、イコール「とぼける」…その言葉を知っているか、知ってないかで考え方は変わると思うんですけど、なんかそのヒントみたいなものを僕はやっていて。役者さんの、その内側から出すっていう事については本当に選ばれた一握りの人、少なくとも基礎がクリア出来た人達だけでやりたいので、少なくとも「とぼけ」ができてない人達とはちゃんと「とぼけ」ができるようにならないと……で、今回は結構素敵な役者さん達に恵まれたので、その先ができるようになっていて。全ての人たちが一回は僕の演出を受けた人達で、 その「とぼける」っていうことが前提になっていて、その前提の上で自分たちの物を見せて欲しいですね。それを、今後もずっとやっていきたいなと思ってワークショップをやっています。
演劇は義務教育になってないのもあるし、音楽とか美術とかと比べて、どうしても基礎がなくて、一般人で用語を知ってる人もいないし、「うまい役者さんって何ですか?」って言われたら、名前をあげることしか出来ない。それが現状だなと思うんです。本当に悲しいのは、一般人の人が演技に対する言葉を知らないっていうのが、僕はすごく勿体ないなーと思っています。やっぱ諸外国に比べるとそこってすごく薄いのかなとずっと思っています。
演劇って生きるためのヒントみたいなのがたくさん詰まってますよね
-深谷-
そうですね。そこに行きたいですよね。そのためには、やっぱり土台があって。でもやっぱり土台だけじゃ全然面白くはないんですよ。土台って全然おもろない(笑)…でもその土台あっての自由と、さらにそこから役者の魅力があって、はじめてやっと人の人生に触れると思っています。今回、役者さんにそこを頑張ってもらえたので良かったです。
オマージュの溢れ加減も面白いですよね。FF(ファイナルファンタジー) だったりサカナクションだったり、ミュージカルだったり。
-深谷-
ふざけるのも大好きなんです。
おふざけも好きだし、定期的に平成シリーズっていうのをやっています。
平成シリーズとはなんですか?
-深谷-
昔の作品を平成版でやってるみたいな「平成舞姫」とか「マリーアントワネットの平成版」とかやってたりしていて、『西には悪い魔女がいる』もちょっとそれの一つに近い感じなんですけど。そういう演劇の自由さが僕は大好きなので こうやったら(泳ぐ真似)もう水の中だし シンバルを叩けば ここが踏切さ、って言えば踏切になる。楽器も好きで、やりたいのもあって、今回は僕がやりたいセットとよくばりセットの二つでやっちゃ・・いや、できました。
描かれている女の人がすごく生々しくて。
そこも面白いと思いました。
-深谷-
ほんとよかったです。うちの親がちょっとフェミニストな方で、昔から「僕が君を守る」みたいな歌詞が大嫌いで「あーそうなんだ、女の人って守られたくないんだな」と思いながら育っているっていうのがあるんです。さっき言ったように、男の理想の女性が嫌いなんですよね。脳みそ死んでるのか?みたいな。僕も男なので、本当に女性の考えている事はわからないし、僕もやっぱ女性の内面の事をもっと知りたいんですけど、 突き詰めるとやっぱまだわかってないみたいな所に行きつくし、そこの線引きは大事だなぁと思っていて、あくまでもお前はわかってないんだぞと 「わかった気になるなよ。小僧が!」みたいな所はちゃんとわきまえてやっています。ちょっと奢りが見えたら申し訳ないです。
今後の展望とかありますか?
-深谷-
さっき話してたワークショップをもっとしたいなって思っています。今は月一で行ってるんですけど、月一で、出来るだけ安い価格で色々な人に受けてもらいです。皆さんの演技をやる機会がこのコロナで激減してしまったので、ちょっとでも増やしたいなっていうのと、あと僕が知っている『とぼける』っていう単語をヒントに、誰かのヒントになったらいいなと思うのをもっと色々な人に知って欲しいなと思って、そういうのを共有する活動をしたいなと思っていて それと同時に今回の2作品みたいに、自分のやりたい事もやりつつですけど、基礎と応用、自由と言うかそこをもっと同時に固めていきたい。尖っていくのではなく、ピラミッドを拡大していくみたいな感じに頑張っていけたらいいなと思っています。
土台を拡張しながら上に積み上げてくっていう感じなんですね。
-深谷-
そうですね。欲張りなんです。
頂点がどんどん遠くなってく感じですね
-深谷-
アーティストの人達は、凄く尖れる人たちだと思うんですけど、僕はそれよりも100年200年続くものがもうちょい欲しいなと思っていて。どうしても僕が好きなになるものって、なんかあんまり未来がないものが多かったりして。ジャズとかも僕大好きなんですけど、今、僕フラメンコに大ハマりしていて…フラメンコすごいですよ。1回見てほしい。「音楽とは人生」で「歌とは愛」で「踊りとは命」なんだみたいなことがダイレクトに。言語全然わかんないですけどスペイン語とか、でもその「人生・愛・命」みたいなものがダイレクトに伝わってくる。
一番感動したのが市民サークルのフラメンコ見に行った時で、多分月1で通ってるおばあちゃんとかがすごい綺麗なドレス着て出てたんですけど、本当に綺麗で。この人めちゃめちゃ綺麗だなと思って73歳って聞いて後で。フラメンコの魅力知ってる人ってすごく少ないなと思って。
多様化が進みすぎちゃって、一個に尖ることもなくなりつつあるので、なんかもっとこれってスゲーんだよみたいな。そこのアンテナだけ、自信があるので。
マイナーなところにはまっていく感じですね
-深谷-
そうですねマイナーです。音楽とかもマイナーでした。ロックとかに全然はまらなくて、クラシックと、あとマーチングだったり吹奏楽だったり。
何かやっていたんですか?
-深谷-
コントラバスをやっていました。家でバイオリンとかピアノとかもやらされてたりゴスペルとかもやらされたり。
そういうところにコンプレックスはありますか?
-深谷-
そうですね・・・。結局、音楽には才能なかったんですけど、でも多分こう色々やってきた中で演劇が一番面白かったし、
一番感動してしまったんで今こうやってやっています。
聞き手 広岡凡一(日本演出者協会 / 広報部)
第27班 若手演出家コンクール最優秀賞受賞記念公演
『ゴーストノート/西には悪い魔女がいる』
脚本・演出 深谷晃成
2021年3月10日(水)〜14日(日)
@下北沢『劇』小劇場
公演チラシ
深谷晃成
埼玉県出身。尚美学園大学卒。2013年に劇団「第27班」を旗揚げ。以降、第27班の全作品の脚本・演出を手掛ける。シアターグリーン学生芸術祭2013にて最優秀賞。道頓堀学生演劇祭2014にて最優秀劇団賞含む計5部門受賞。
日本演出者協会 若手演出家コンクール2019年度最優秀賞受賞