《 令和 5年度活動報告 》
2023年度の活動としては、文化庁委託育成事業と障がい者による文化芸術活動推進事業、またDM、各部のオンライン勉強会、観劇案内(ホームページ協会員公演情報)等が 主な事業でした。役員改選を行い、新理事による理事会の開催も実施しました。
“令和5年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業”としては、「演出家・俳優養成セミナー2023演劇大学、国際演劇交流セミナー2023、日本の戯曲研修セミナー2023、若手演出家コンクール2023」の 4 事業を行いました。出版では、『年鑑・国際演劇交流セミナー2023』の編纂をし、発行しました。 2023年度の課題は、2022年度に続き、コロナ禍後の事業をいかに推進するかの対応でした。協会のガイドラインに沿って、オンラインだけでなく久々の対面形式でも行いました。“令和5年度障がい者による文化芸術活動推進事業”としては、4年目の目標を“飛び出す”として、東京都西多摩郡にある東京多摩学園の利用者さんと地域のみなさんとの演劇ワークショップだけでなく、三島市の施設“虹のかけはし”のみなさん、そして立川学園の聴覚障がいをもつ学生のみなさんとの創作、またネットワークを拡げるためのシンポジウムを実施しました。
勉強会としては、社会包摂部のオンライン手話勉強会、また新たな伝統と現代研究会による勉強会も始まりました。
協会の全体の方針としては、《社会的役割》を更に考え、実施しようと努めた 1 年でした。また、コロナ禍後の支援・補償の問題、なぜ演劇に支援が必要なのかを明確に語る言葉を共有することに努めました。
A. 国際演劇交流セミナー
1、国際演劇交流セミナー ニュージーランド特集
マオリ現代パーフォーマンスの最先端で活躍するマオリ人作家のブライア・グレイス・スミス氏と芸術監督の タネマフタ・グレイ氏の2 名を招聘しました。これまで日本で紹介されなかったニュージーランド演劇の沿革を知る目的に加え、世界各地から難民・移民を受け入れ多文化共生と平等主義を重視する社会として形成するニュージーランドの芸術活動の在り方も学ぶことを目的としました。 最終5 日目の映画『Cousins(カズンズ)』鑑賞では、講師と参加者で質疑応答を行い、世界各地から難民・移民を受け入れるニュージーランドの課題なども共有し、設定していた内容や目的を越える成果があったと感じています。
2、国際演劇交流セミナー 韓国特集
近年の韓国特集は、「地域社会の人間関係や活動を演劇によって活性化し、教育や社会包摂の演劇を牽引できる演出家・俳優の育成」という点を目的として開催しています。韓国では、2004 年からの「文化芸術教育」の推進により「学校における芸術教育」 として全国の学校や施設に、演劇、舞踊、映画、韓国伝統音楽など 8つの分野の専門性に応じて「芸術講師」と呼ばれるアーティストが派遣され、10 年後の2014 年には7000 校以上の学校に5000 人近いアーティストを派遣するまでになりました。この異例の芸術教育の推進、そして、前例のない「芸術講師の派遣」システム及び事例・トレーニングシステムなどを、今回、韓国で芸術(演劇)教育を行う実践者・専門家の2 名をパネリストにお呼びして紹介してもらいました。 オンラインを活用したことにより、全国の演出家・俳優・施設関係者などに届けることができました。また、同日に視聴することができなかった方へ、見逃し配信や年鑑に画像を加えて書き起こし広く伝えることができました。
3、年鑑編纂事業
国際演劇交流セミナーは、1999 年(平成11 年度) から毎年開催され、 2023 年で25 年目を迎えました。年鑑冊子は19 年ほど刊行を続けています。年鑑冊子は、演劇を学ぶ機会が減少している若手、演劇の多様性、各国の生活の現状を学び次代の演出家や俳優がさらにグローバルな作品を生み出せるようにするため、更には、若い世代が自信を持って国際交流に励めるようにすることを目的に編纂・発刊しています。そして、冊子にする利点は、全国の演出家や俳優が自分の時間で学べる点だと考えています。 今回も、ニュージーランドから招聘した2 名の講師のセミナー体験、韓国の教育演劇の実践者と研究者のレクチャー、付録として、1999 年に開催されたハンガリー特集、年代を4 回に分けて記している日韓演劇交流年表、参加者レポートなどを掲載し、充実した内容を全国に届けられていると感じています。
B. 演劇大学
1、演劇大学 in 長崎
第一線で活躍する講師より直接指導を受けることで、スキルアップ、地域演劇の底上げとなったと思います。受講生は、地域で演劇活動を続けている方がほとんどですが、経験で学んできた方が多く、理論に基づいた実践形 式での学びの場は、長崎県では皆無であり、頭で考え体に落とすことができたと感じています。参加者は、今後 の演劇活動に生かすことができるだけでなく、そもそも演劇とは何なのかを深め、人間が豊かに生きていく上で 大切なことが込められているということを学びました。また、地域そして九州で活動する人のネットワークづく りができたと確信しています。
2、演劇大学 in 沖縄
コロナ禍を挟み3回目の実施となりました。実施当初からの目標である、沖縄演劇人の基礎的な能力の向上からより実践的な講座内容へと変更していきました。新規での受講者以外にも継続して受講する方も増えました。各 講座への受講者は経験者が多数となり、それぞれの現場や新規の企画公演も見られます。所属団体の枠を超えた受講により、各演劇人のネットワークの広がりや新規公演の企画等、沖縄演劇界の活性化に繋がっています。
3、演劇大学 in 島根
第3回目を迎えた今回は、地方の文化振興、若手演劇人の育成、舞台関係者の育成などを目的に、新型コロナ 感染の影響で沈滞した地方の演劇活動を再び活性させることを目的としました。コロナ感染によるインドア生活 から一歩を踏み出すことを選んだ実行委員会のメンバーや受講者には、再び新しいスタートを切ることができた と感じています。 今回の育成講座は活躍する演出家の指導のもと、作品に対する解釈や演出への理解をより深める機会となり、 受講前よりも繊細かつ作品に寄り添ったアプローチを学ぶことができたとように思います。制作した『紙風船』 の全国のローカルテレビ配信や、新たな舞台での講師を受講者が務めることとなり、県内の演劇の質を根底から 底上げすることができたと感じます。講師のはせひろいち、弦巻啓太、神西ひろみ3氏に尽力をいただき、受講 者の生き生きとした様子、笑顔から講座の充実ぶりが伝わってきました。 受講者は、今後も講師との出会いを生かして未来の島根の演劇を創造し、「演劇を生きる力」にしていくと確 信しています。
4、演劇大学 in 大阪
若い世代(特に高校生と大学生)の受講者が多く、若年層にアプローチを果たせたのは当初のねらいと変わら ず良かったと感じています。例年とはガラッと層が変わったため、これまでの受講者層をどれだけ同時に継続し て育成できるようにするかが次年度の課題でもあると考えています。 コロナ禍などによって劇場や稽古場が減少し、そのために世代を超えて集う場が無く、演劇人のネットワーク の再編成が求められていましたが、そのきっかけを生み出せたように思います。
C. 日本の戯曲研修セミナー
1、日本の戯曲研修セミナー in 大阪
登壇した若手演出家、リーディング出演者含め、全員が、初めて川口一郎の戯曲に触れる機会を得ました。 リーディング、レクチャー、ディスカッションを通じて、彼の戯曲に対する理解を深め、舞台化するための様々なアイデアが生まれ、提出されました。
2、日本の戯曲研修セミナー@オンライン①
オンラインである特徴を生かし、全国各地から(海外からも)多くの育成対象者が参加しています。オンライン①では村山知義『死んだ海』3部作を取り上げ、実行委員会が選定した育成対象者11名と司会者2名によるデ ィスカッションを行いました。サンフランシスコ講和条約発効の直後から執筆・上演された『死んだ海』3部作 を読むことで、演劇が具体的な社会状況にどのように応答しているかを探り、現在の演劇シーンを照射する機会 となりました。
3、日本の戯曲研修セミナー@オンライン②
1950 年代後半に発行された「現代女流戯曲選集」から戯曲を選定し、実行委員含めた育成者9 名が、それぞれ戯曲や作家についてリサーチし、発表し、議論する形式としました。2022 年度の青鞜企画に続き、戦後の女性 作家による戯曲を読むことで、日本近代における女性のおかれた状況に思いを寄せ、また、メジャーな戯曲群と は違う流れで、優れた戯曲があることを発見できたと考えています。
4、日本の戯曲研修セミナー in 東京
知念正真企画では対面式の特徴を生かし、実際に声に出して読みながら、じっくりと議論を行うことに主眼を 置くことができました。沖縄近代史への理解、また演劇史的な知識は育成対象者10 名によってまちまちでした が、対面式の場合には、そうした「バラバラさ」はむしろお互いの刺激となり、良い学びあいが生まれる機会に なったと感じています。若い世代にとっては、既成戯曲の読み方や魅力を発見する場となり、ベテラン世代にと っては、自分たちのなかでの常識を疑う機会となりました。
5、日本の戯曲研修セミナー in 東海
「近代戯曲と東海」と題して、坪内逍遥から始まり、2 年目は永井荷風、3 年目に新美南吉、4 年目には長年にわたり東海地方を中心に様々な演劇の現場で活躍され、2020 年秋に亡くなられた、劇作・演出家の菊本健朗 と、作家それぞれの活動を取り上げてきました。地元の演劇人として、劇作の流れを再認識し、東海を舞台に 活躍した劇作家の諸相を、作品の朗読、研修、講演会などを通して探って来ました。 2023 年度、第5 弾については、「日本の女優第一号」川上貞奴を取り上げ、彼女が製作、上演した様々な作 品、戯曲をリーディングや芝居の上演など研修を行いました。演出者だけでなく、劇作家、俳優、一般参加者 も含めた幅広い対象者層の参加者により戯曲の研修を行い、次世代を担う演出者、劇作家、俳優育成にもつな がるセミナーとすることを目的としています。 ルチア氏が講師を務めた「俳優育成ワークショップ」では一般公募から遠藤千賀さんが参加、ほりみか氏が演 出した『浮かれ胡弓』には中学生3 名、高校生3 名が俳優として参加、川村ミチル演出『「女壮士、貞奴。」 ~「婦人と言えども人である」と言われた女たち~』では、若手俳優の谷口美紗さんが出演、はせひろいち演 出リーディング『オセロ』では若手俳優の林優花さんが出演しました。協会員からはMIYU、みなみ津姉が積 極的に参加し、各作品の制作過程からレポートを作成しました。
6、日本の戯曲研修セミナー アーカイブ
研修のプロセスを文書化、戯曲読解する際の重要なトピックなどをまとめて文書化しアーカイブとして公開しています。育成対象者に加え、研究者や実演家からも、公演や授業などで活用できる等の好評のお声をいただいています。
今年度は、下記5 つのセミナーのアーカイブを日本演出者協会ホームページに掲載しました。
・日本の戯曲研修セミナーin 東京2023 知念正真『人類館』を読む!
・日本の戯曲研修セミナー @オンライン2023『現代女流戯曲選集』を読む!
・日本の戯曲研修セミナー @オンライン2023 村山知義『死んだ海』三部作を読む!
・日本の戯曲研修セミナーin 東海2021『新美南吉特集 』
・日本の戯曲研修セミナーin 東京2019 宮本研&秋浜悟史を読む!『美しきものの伝説』&「東北の四つの季節」
D. 若手演出家コンクール
狭い環境で活動する若手や地域の演劇人がもっと広く周知され、活躍する場を広げることを目的とする事業
として、関東近郊に留まらずコンクールの存在を遠方地域の演劇人にも知ってもらい、応募者を増やすために、他事業である演劇大学、国際演劇交流セミナー、戯曲研修などで関わった地域の演劇人と連携を取り、チラシの配布や声掛けを行う工夫をしています。
最終審査会での上演を動画配信することにより、期間中に何度でも観劇できるようにし、審査会での演者、審査員の発言内容を聞いた上で再び観劇することにより、表現の工夫などを改めて発見、気づくことができるよう配信期間も最終新開終了後も延長して配信しました。優秀賞4 名への関心もより深めることができました。
E. 社会包摂部
静岡県三島市「虹のかけはし」ワークショップ(7 月)、奥多摩演劇ワークショップ(8 月)、東京都立立川学園ワークショップ(5~10 月)では、参加者自身の思いや、言葉によるメッセージで物語やダンスを構成し、障がい者と健常者が心を通わせ、一つになるという成果に繋がりました。
成果発表を観た方から、次年度に演劇ワークショップを希望するとの手が挙がり、聴覚障害のある方でも表現できる方法を知り実際に従事している施設で試してみたいとの声をいただきました。
7 月のオンライン・シンポジウムでは、身体にこだわり、「あるがまま」の生命から演劇の可能性を探る作業療法士の川口淳一氏、体奏家の新井英夫氏の取り組みを紹介し、当該事業を進行中の多くのファシリテーターから、非常に参考になったとの声がありました。また、奥多摩ワークショップのサポーター募集告知を行ったところ、3 名がサポーターに応募、成果発表のサポートを務めてくださいました。
今年度は、ワークショップとオンライン・シンポジウム及び報告会(オンライン)がうまく連携し、「施設利用者の芸術の享受と社会参加だけでなく、全国の施設の存在の認知度の向上、施設で働く職員の孤立状況の改善、施設と施設職員の増加、社会参加」に寄与できたと考えております。このような取り組みを一歩一歩着実に行い、交流や体験を継続していくことで、地域における多文化共生社会の実現へつながっていくことを展望しています。
F. 広報部
Webマガジン『D』や広報部のX並びにInstagram等の運用が始まり、少しずつ広報部の活動が見え始めて来たように思います。しかしながら、まだまだ課題は多くページデザインの改善やSEO対策並びにアクセス数対策などの必要性出ています。具体的に広報物が広がるように尽力してまいります。その様な中ではありますが、新たに4名の広報部員が入部し、全国各地に部員が広がる状況が進んでいます。オンラインによるZOOM会議への参加を始め、記事作成がメイン業務となるため、部員が東京に集中する必要はなく、演出家同士の横のつながりを作り出しています。引き続き魅力ある演出者協会の連帯に向けて尽力していきます。 2024年度は広報部員の拡充は継続して行いつつ、Webマガジン『D』のコンテンツ充実化や演出者協会ホームページとの棲み分けなどについてを、部員増員を考慮しつつ、広報部の活動内容を広げていきたいと考えてます。
―― 事業内容 ――
- 広報部定例会議の開催
- Webマガジン『D』のデザイン並びに運営方法の整理
- 地域で活躍する演出家シリーズ 亀尾佳宏さん
- 広報部おすすめの一冊 ピーター・ブルック
- Future企画「全国で演劇祭を立ち上げよう」
G. 教育出版部
1、教科書分科会は、6 人の編集メンバーを中心に進めてきた演劇入門書「はじめての演劇」は、2022 年年10 月7 日ホームページにPDF 版を公開しました。同書は、「概要編」・「知識編」・「実用編」の3 部構成による全36 項目120 頁の内容となっており、これから演劇を始める中高生やアマチュア演劇の指導者を念頭に、親しみやすさ、分かりやすさに留意し、以下の23 人の現役の演劇関係者に執筆をお願いいしました。書籍での出版に向けては保留となっています。PDF 版の再公開に向けて検討しています。
2、EPAD 「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業」 その後
2021 年3 月より公開している、E ラーニング動画『舞台芸術スタッフの仕事』は、総再生回数50,000 を超えており、これを公開している日本演出者協会・教育出版部のYOUTUBE チャンネルは、登録者は 1500 人を超え、YOUTUBE による収益化の条件の一つをクリアしており、今後もさらなる活用を検討しています。
3、 そのほかの活動としては、演劇の啓蒙と普及という観点から、高校演劇大会への「演出者協会賞」の設置について、準備・検討を行っています。
H. 日韓演劇交流
日韓演劇交流センターは新体制へと変わり、2023 年度で3 年目を迎えました。2023 年度は、まず、「日韓演 劇ラボ」として、トーク&レクチャー「日韓演劇交流をたどる旅(1)、(2)」を実施、パネリストに西堂行人氏、モデレーターに洪明花氏を迎え、各回ゲストを招きながら、1920 年代の築地小劇場の時代から、1972年唐十郎の状況劇場のソウルでのゲリラ公演を経て、現代に至る日韓演劇交流の歴史を振り返りました。「オンラインレクチャー 韓国演劇のいまを知る!」では、韓国の劇作家キム・スジョン氏とイ・ヨンジュ氏を紹介しました。2024 年は3 月には、韓国・ソウルでカウンターパートの韓日演劇交流協議会主催で、第11 回現代日本戯曲朗読公演を実施、内藤裕子・作『カタブイ、1972』(翻訳:シム・ヂヨン)と鈴木アツト・作『ジョージ・オーウェル -沈黙の声-』(翻訳:チョン・サンミ)がドラマリーディング上演されました。
I. 観劇案内
協会員がお互いの活動を知る場として、2021年1月よりホームページ内に、《協会員公演情報》のページを開設していますが、2023年度も協会員の関わる公演、協会員向け招待・優待を頂いた公演の案内をおこないました。タイトル、日時だけでなく、公演に向かっての意気込みを書いて頂けると幸いです。また、公演をされていても情報が掲載されていないことも多く、ぜひこの場を盛り上げていただけないでしょうか。 公演情報は、ホームページの「公演情報登録フォーム」に入力して頂くシステムです。 よろしくお願いいたします。
J. 新入会員
協会の事業での出会いや、普段の創作活動での交流によって、7 名の方が入会されました。 推薦者2 名による推薦文をお願いしています。 コロナ禍、また高齢化による活動の停止によって退会される方も多くいらっしゃいます。