若手演出家コンクール2023 優秀賞受賞者インタビュー〈広報部〉鈴木あいれ

鈴木あいれ(劇団コメディアス)『 キャッチミー開封ユーキャン RTA

―― まずは初日お疲れさまでした。今日(2/27)は14時から仕込み、場当たりをして17時ゲネ、19時開演、バラシという流れでした。どんな1日でしたか?

鈴木
いやあ、バタバタとした1日でした。でも小屋入りの時はいつもこんな感じなんで、いい緊張感で過ごせたかなとは思います。

―― 今回の作品『キャッチミー開封ユーキャンRTA』は、2つの箱に3人の人間が閉じ込められていて、協力し合ってそこから抜け出すゲームという設定の劇でした。ゲネと本番両方見させていただいたのですが、ゲネは制限時間(60分=上演時間)内に抜け出せたけど、本番では失敗に終わりましたね。これはよくあることなんですか?

鈴木
いいえ。今日は「本番でここまであるか」というくらいたくさんハプニングがありました。初演の時は時間制限がなかったのですが、箱から出られなかったのは、通し稽古も含めて今回が2度目です。

―― もう何度も上演して磨き上げられた作品、という印象を受けましたが、役者が「慣れ」てしまわないために、何か気をつけていることはありますか?

鈴木
通し稽古を、毎回違ったテーマを持ってやるようにしています。たとえば、今日はどれだけ時間がかかってもいいからルーズにやってみよう、とか。それから、道具の仕掛けがたくさんあって、どうしても毎回違ったことが起こるので、役者はその都度新鮮に対処せざるを得ないという面はあると思います。

―― 箱から役者の手だけが出て動いている、役者の顔も手以外の身体も見えないという舞台だったのですが、それだけに相手役に働きかける台詞の力強さが印象的でした。台詞に関してはどうお考えですか?

鈴木
役者にいつも言っていることは、まず「現象」があってから台詞があるんだよ、ということです。台本に書かれている台詞は「現象」が引き起こした結果のところだけであって、目の前で起こった出来事、あるいは相手役の台詞がしっかりと自分に届いてから次の行動や台詞を始めるように言っています。

―― 今日の舞台ではもうひとつ、誰も台詞を発しない「間」が効果的でした。

鈴木
この舞台では、役者が(役で)困ったり迷ったりしている瞬間を大切にしています。ゲーム実況だとしたらお客さんには「初見プレイ」だと思ってほしい。「しっかり練習しました」って感じでやってしまうと、お客さんはダイジェスト版を見ているように感じるでしょう。役者がつまったり、悩んだりするところで、お客さんも一緒につまったり、悩んだりしてほしい。さくさくクリアしていくようにはしたくないです。(笑)

―― 鈴木さんは大阪のご出身ですが、東北大学で演劇部に所属されていたとうかがっています。大学は何学部でしたか?

鈴木
工学部です。

―― 箱みたいな仕掛けとか、ご自分で考えるのがお好きですか?

鈴木
そうですね。設計とか、ゲームデザインとか。卒業して今はプログラムエンジニアの仕事をしています。

―― 今後取り組んでみたい題材はありますか?

鈴木
前から液体を使った舞台をやりたいと思っていて。なかなかハードルが高くてできないでいたんですけど、次回の公演で挑戦しようと思っています。

―― 水、とかですか?

鈴木
レーザーを使った舞台になるんですけど、水面で反射させたり、水と油とか屈折率の違う液体をいくつか重ねて屈折させたり。

―― これからの抱負を教えてください。

鈴木
昨年VRのゲームを制作してリリースすることができたんですけれど、ゲームと演劇の間にあることが僕がこれから長く取り組んで行くことになるのかなと考えています。ゲームよりの演劇だったり、演劇よりのゲームだったり。今回の作品はその第1作目ということもできると思います。

―― 今日はお疲れのところ、ありがとうございました。

鈴木
いえいえ。僕は今日、役者が箱から出られるか、ハラハラしてただけですから(笑)

―― 次の公演(3/2)では無事に脱出できるといいですね(笑)

聞き手 日本演出者協会 広報部 冨士川正美

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