若手演出家コンクール2022 最優秀賞受賞者インタビュー〈広報部〉 ニノキノコスター

ニノキノコスター(オレンヂスタ)『「サトくん」のこと。』

―― 最優秀賞おめでとうございました

ニノキノコスター
ありがとうございます!自分の作品も含めて4作品を観て、どれも個性があってどれも面白くて。正直、他の人が受賞するだろうなぁと思っていたので、とても驚愕しています。

―― 公開審査会で印象に残った言葉などはございましたか?

ニノキノコスター
流山児祥さんに「北村想さんに似た乾いた虚無感がある」って仰っていただいて。私は想さんと自分が似ているとは全く思っていなかったんですが、今回の演出方法を取った結果「今回はそういう印象になったんだなぁ、なるほど」というのが興味深かったです。人形劇以外の劇を製作する時は西田悠哉さんに近い作風なので、人形(ひとがた)をフィルターとして使うことで、乾いた虚無感みたいになったのかなぁ?と思いました。あと、私が尊敬している演出家さんは鈴木忠志さんなんですが、「世界は病院である」つまり「正常な人間などいない、みんな等しく狂っている」と仰っており大変共感していたのですが、鐘下辰男さんが「みんな狂ってるよねぇ」と仰った時に、「鐘下さんも、その感覚値の中で人間の生について考えてらっしゃるんだ……!」と、凄く勇気をもらいました。

―― 創作のきっかけは何だったのでしょうか?

ニノキノコスター
弟が自閉症で中度知的障碍があるんです。幼少の頃からオウム返しでしか言葉を返さなかったり、家で奇声を発したり、学校でいじめられたり差別を受けている姿も見ているし。で、自分自身が「この人のことを家族、弟として憎いと思ってるのか、障碍があるから憎いと思ってるのか?」っていう「健常者と障がい者の違いって何だろう?」みたいなのがずっとあって。演劇、劇作を大学後半から始めた時のテーマもそれで。コロナ禍で演劇不要論みたいなのが出た時に、もう一度自分たちと世界を見つめ直すには、やっぱり自分の根源的なテーマである障がい者の事かな、で、植松聖の話……津久井やまゆり園の話を描こうと思いました。実は、障がい者に関する話は昔から結構手を替え品を替えやってたんですけど、なかなか、お客様との、共感の接点を作りづらい。刺さりづらいんだなぁというのがあったので、実際にあった事件をモチーフにした時に、お客様がどんな事を思うんだろう?それは、自分とどう違うんだろう?というのを観たくて書きました。

―― その手応えはいかがでしたでしょうか?

ニノキノコスター
うーん。まぁこういう反応だろうなぁという感じです。技術的に足りない所とか、尺や演出として足りない所は今後の未来に活かしていくだけなのですが、もっと感想がとにかく聞きたいなぁって思ってます。嫌悪感があってもいいし、泣けたっていうのでもいいし、笑えたっていうのでもいい。何でもいい。あなたは、障がい者を……そしてそれを殺害した人と、その友人達をどう捉えたか……っていう話を聞きたい。人の話が聞きたいです。

―― 演出のポイントを教えていただけますか?

ニノキノコスター
人間が演じている所と、人形(ひとがた)を遣っている所があるんですけど、人形(ひとがた)を遣っているターンは、幼少期のヒーローごっこ、高校の恋人、大学のサークル、あと施設における障がい者のぬいぐるみと野菜。5箇所ですね。この5箇所はとにかく人形劇の技術の基本”止め”とか、どの角度でどの様な表情をして見えるのか?を注視しました。俳優さんが初めて人形(ひとがた)を扱う時って、色々させたくなっちゃって手数が多くなりすぎちゃうんです。でも、それって人形劇的には見づらくなっちゃうので、「端的にちゃんと明確に」みたいなのは拘りました。

―― 人形を遣っていたけれども、果物を切ったり野菜を切った理由を教えていただけますか?

ニノキノコスター
これは、二人の殺人犯の話になるんですが……。まず、津久井やまゆり園の植松聖が「あいつらは人間じゃない」という発言を実際にしている。「動物以下だ」って。「じゃあ何だと思ってんだ、お前」って話になるんですよね。で、もう一人。神戸連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇聖斗が自分と同年代で「汚い野菜共には死の制裁を」って声明文を新聞社に送ってて。お客様の中で通じる人と通じない人はいるけど、野菜っていう有機物と、人形(ひとがた)っていう無機物が違うものに見えるとしたら、サトくんと野菜の関係や、施設の人と野菜の関係が浮かび上がって来るな、と思って書きました。実際に人形(ひとがた)を遣って、ぬいぐるみを実際刺したりちぎったりしてもいいんですけど、単純にぬいぐるみが消え物になるのが困るってのもありました(笑)

―― なるほど

ニノキノコスター
毎回縫うのは……とか(笑)。あと、野菜なら絶対に切った時にいい音がするし、いい匂いがするから。その方が、うわぁ……っていう生理的嫌悪感がお客様に沸くだろうなぁ、という感じですかね。

―― 最後になりますが、最後に皆様にお伝えしたいことはございますか?

ニノキノコスター
今まで名古屋以外にも関わって頂いた演劇界の色んな先輩たち、仲間たち、スタッフさん、俳優さん、だけじゃなくってコンテンポラリーダンス界、人形劇界の方もそうですし、そういう人々のお陰だと思っています。後は、不甲斐ない嫁ではありますが、演劇を生業として生きている自分を温かく見守ってくださる義理のご両親様を始めとした家族のお陰だと本当に思います。みなさん愛しています。ありがとうございました。

 聞き手 桒原秀一 (日本演出者協会 / 広報部)

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