日本の戯曲研修セミナー2022 in 東京報告 岸田理生『ソラ ハヌル ランギット』を読んだ!
今回、日本の戯曲研修セミナー in 東京では、岸田理生『ソラ ハヌル ランギット』を取り上げた。近代戯曲以降の作品を取り上げることになって以来、60年代以降の作家では、井上ひさし、別役実、唐十郎らを対象としてきたが、岸田理生さんを取り上げたのは、その流れにあるものだといえる。また、並行して行われていた「雑誌青鞜を読む!」とも連動して、日本の女性の劇作家について、さらに研修を深めていこうという狙いもあった。
実施にあたり、新たな試みを行った。3人の演出家を公募し、作品の同じ1シーンを公開発表する。一つは部の活動を部内だけにとどまらない広がりを持たせること、そして、何より「過去の作品を今、私たちが上演するには?」という命題に対しての試みであった。出演者は実行委員会が依頼した俳優に拠り、また、照明、音響は特に劇場機構は使用せず、衣装、小道具の予算は5千円以内という制約も設けた。初めての試みだけに、紆余曲折ありつつも、その度に演出家、実行委員、時には俳優も交えて話し合いながらことが進んでいった。
まず、「戯曲読み&ディスカッション &ゲストトーク」と称して、皆が集まった(1月29、29日 梅ヶ丘ボックス)。ゲストの演劇研究者岡田蕗子さんによるレクチャーは、岸田戯曲の理解を深める上で非常に有効であったと思う。(このレクチャー含めぜひアーカイブをご覧いただきたい)また読み合わせにも参加してくれた、初演の出演者、小林達雄氏の作品へのアプローチも興味深かった。初日の読み合わせ、ディスカッションを経て、2日目はさらにそれを深め、実際に公開上演するシーンについて決めた。
その後3週間ほどの時間をおき、俳優にはセリフを覚える時間、演出家には演出プランを練る時間とし、2日間の稽古を行い、2月23日「発表会&フィードバック」(アレイホール)を行った。
残念なことに、演出家の1人が直前で体調不良となり、結果2チームでの発表となったが、当日の観客からも「非常に面白かった」という感想を多くいただいた。
短時間でセリフを覚え、違う演出の同じシーン! に参加する俳優の負担など、考えていかなければならない問題はあるにしろ、今後も実施していきたい試みとなったと思う。
何より2人の演出家の違うアプローチが興味深く、現代でこの作品をどう上演するか、という視点に溢れていて、個人的にも一人の演出家として揺さぶられた。ディスカッションでは、長らく岸田理生さんと作業をしてきた宗方駿さんにも参加して頂き、岡田蕗子さんも含め、発表された作品の、そして岸田理生作品の現代性について、さまざまな話が出た。(しつこいがぜひアーカイブで見てほしい)
『ソラ ハヌル ランギット』のタイトルは、空を意味するアジア圏3カ国の言語を並べたもの。初演の出演者も多国籍であった。この作品のキーワードは、幾つもあり、日本、侵略、戦争、そして言語。
岸田理生さんは、特に後期において「言語」というものを、ご自分の考える歴史や社会を表象する斧と考え、作品の核に置いていたのだと感じた。
率直に言って有意義な試みであったし、また企画のフォルムとしても次回に繋がっていくものではなかったかと思う。
*アーカイブについては、順次発表予定です。
報告者:丸尾聡
(日本の戯曲研修セミナーin東京 実行委員)
▣ 日本の戯曲研修セミナーin東京 2022 岸田理生『ソラ ハヌル ランギット』を読む!