日本の戯曲研修セミナー2022 in 福岡 木下順二を読む!〜劇のことばのつくりかた〜 報告
日本の戯曲研修セミナーin福岡2022では、劇作家・木下順二とその戯曲について時間をかけて学ぶために〈前期〉〈後期〉に分けての研修となりました。事業全体の切り口を【劇のことばのつくりかた】とし、民話劇『夕鶴』などで知られる日本を代表する劇作家の劇の言葉、ドラマツルギーに触れていくことで、演出家・研究者・俳優・観客・スタッフそれぞれが独自の視点を持ちながら関わり、学び合う時間となりました。
〈前期〉では演出家の鵜山仁さんを講師としてお招きし、オンライン参加者8名が、戯曲『三年寝太郎』を演出家の視点も交えつつ読み進めていきました。声に出して読み、ディスカッションを繰り返すことで登場人物の意識の流れ、行動原理を参加者と共に考え、最終日には参加者それぞれが『三年寝太郎』を上演すると考えた時のアイデアやスケッチなど持ち寄ることで、イメージの共有まで行いました。新型コロナウイルスの影響を考慮し、前期は九州ブロック初のオンライン開催となりましたが、普段戯曲を立ち上げている演出家が戯曲や作家のどのような部分に着目し、いかに読んでいるのか?というポイントに触れることのできる貴重な機会となりました。そして、活動地域の異なる参加者同士、講師との交流も戯曲研修セミナーの良さであると再確認する機会となりました。
〈後期〉は読み合わせ会、リーディング上演、上演前レクチャー、シンポジウムなど対面での実施となりました。読み合わせ会では、木下順二氏を師と仰ぐ劇作家・福田善之さんにコーディネーターとなっていただき、【声に出して読むべき木下順二戯曲】ということで、『風浪』『おんにょろ盛衰記』『東の国にて』の3作品をセレクトしていただき、福岡を拠点として活動する演出者たちの進行で、公募で集まった参加者と共に読み進めていきました。「風浪が雑誌に掲載されているのをみて、大興奮した」「木下順二さんのドラマツルギーはギリシャ悲劇の『オイディプス』にある」など作家と直接親交のあったコーディネーターの方の生の声に触れることができ、作家の存在を、リアリティを持って感じることができました。また、最終日の発表ではそれぞれ進行役を務めた地元演出家によって、読み合わせ会の様子や戯曲の魅力などが来場した観客に伝えられました。
リーディング上演では福岡で活動している俳優6名と、育成対象者で演出家の石田聖也が戯曲『暗い火花』をリーディングとして立ち上げ、観客と共有しました。戯曲をどう立ち上げるか、またどう演じるか、という実践の中で戯曲に迫っていくために、演出プランを作成したり、実際に動いて演じてみたりと座って読んでいるだけではわからない隠された戯曲の魅力を感じることができました。作中の停電の描写をもとに、上演中は停電した状態で読むことで、どのような時空間が戯曲に隠されているのか、観客と共に五感を使って考えることができたのも良い収穫でした。
上演前には評論家の西堂行人氏のレクチャーを受講することで、実際に戯曲の言葉に触れる前に、「新劇とは?」「演劇史における木下順二という作家の位置付け」など様々な前提知識を観客と共有する時間となりました。シンポジウムではリーディング上演を振り返り、「俳優が身振りを封じられていることで作家の書いた言葉が真っ直ぐ観客に届くのではないか」という、戯曲研修セミナーでのリーディングという形式まで話が及び、戯曲や作家の紹介としてのリーディングの特殊性についても触れることとなりました。 戯曲研修セミナーin福岡は2020年以来、2年ぶりの開催となりましたが、地元の実行委員が今の自分たちに必要な学びの場を作る、ということを大切にして企画運営してきました。今後も「新劇」をテーマに、偉大な作家たちの仕事に触れ、これからの未来に活かしていこうと考えています。
報告者:石田聖也
(「日本の戯曲研修セミナーin福岡木下順二を読む!〜劇のことばのつくりかた〜」実行委員)
[前期]2022年7月3日(日)、8日(金)〜10日(日) オンライン
[後期]2022年11月6日(日)、13日(日)、20日(日)、27日(日) 対面
文化庁委託事業「令和4年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
主催:文化庁、一般社団法人日本演出者協会
制作:一般社団法人日本演出者協会
企画:一般社団法人日本演出者協会九州ブロック
制作協力:高橋知美(キューズリンク)
宣伝美術:松田陽子
会場:オンラインzoom、福岡市民会館
実行委員:石田聖也、上野隆樹、日下部信、五味伸之、山田恵理香、若宮ハル
[前期]
【演出家と読む!木下順二】
講師:鵜山仁
使用戯曲:『三年寝太郎』(『夕鶴・彦一ばなし』新潮文庫)
[後期]
【福田善之Selection-読み合わせ会】
コーディネーター:福田善之
進行役:五味伸之、山口大器、若宮ハル
使用戯曲:『風浪』『東の国にて』『おんにょろ盛衰記』
【レクチャー「シンゲキー木下順二論」】
講師:西堂行人
【リーディング上演】
演出家:石田聖也
使用戯曲『暗い火花』
出演:いしだま、唐島経祐、中村卓二、野間銀智、福澤康仁、藤井啓子
音楽:hotaka
【シンポジウム「劇のことばのつくりかた 木下順二編」】
出演:石田聖也、須川渡、西堂行人
▣ 日本の戯曲研修セミナーin福岡2022 木下順二を読む!劇のことばのつくりかた